自分たちが「伝えたいこと」と顧客が「聞きたいこと」がズレている。展示会で見られる根本的なエラー原因の一つだ。これらを回避するための方法として「自社のビジネスを適切に分析すること」と「顧客像を具体的に想定すること」という方法をご紹介してきた。
ここからさらに、自社の強みを顧客視点に立って補強し課題解決型ブースの精度を高めたいなら、顧客(ペルソナ)を演じるロールプレイングを行うことが効果的に作用する。いわゆるロープレは展示会ブース企画の様々な段階で活用できるが、まずは自社の魅力探しに活用してみるとよい。
- 顧客視点になろうとしたときに、よくある誤解
- ペルソナに「なりきって」魅力がどこにあるのかを探す
- 「顧客の立場に立つ」を真に実践する・・・とは
- ペルソナロープレで、顧客感情をサーチ
- 担当者一人で一連の作業をする必要がある場合
- 終わりに
顧客視点になろうとしたときに、よくある誤解
ペルソナを徹底的に理解したとしても、自分自身の視点から脱却しなければペルソナの行動を追体験し感情を理解することには繋がらない。
そして、ここで誤解が生じるケースが多い。
こんなフレーズをよく聞かないだろうか?、「客観的に考えよう」と・・・これは違いうのだ。あくまでも「主観的に考える」であって「客観的に考えてはいけない」なのだ。
そもそも客観視とは自分の視点からもペルソナの視点からも離れた、文字通り客観的に捉えた視点であり神の視点とも言えるモノだ。
主観的の対義語として客観的が挙げられるが、我々が知りたいのは客観的な視点ではなく他社の主観的な視点だ。他者とは言うまでもなく顧客のこと、顧客の主観的な視点を知ることができるから、顧客の課題をリアルに捉えることができるのだ。
顧客の視点に立とうとしたときに、自分と顧客の姿を俯瞰的に捉えるようなイメージを思い浮かべてはいけない。それは客観視という名の神の視点であって顧客の視点ではない。
顧客の視点からは何が見えているのだろうか?、それはあなたの姿であって、あなたの所属する会社であって、あなたの競合になる会社たちだろう。顧客自身は鏡でも使わない限り顧客自身の姿を見ることができないはずだ。
ペルソナに「なりきって」魅力がどこにあるのかを探す
先ほど挙げた「顧客(ペルソナ)の主観から見えるもの」を意識するだけでもイメージできる世界はがらっと変わる。ペルソナの主観をふまえたうえでなら、もしここまで自社ビジネス分析やペルソナ設定を実践してきたのであれば、検討した内容を見比べるだけでも一定の気付きはあるはずだ。
自社分析とペルソナ設定については以下の記事を参考にしていただきたい。
さて、それではペルソナに埋没したうえで検討する内容についてご説明しよう。これは、どれだけ本気で「演じる」ことができるか、というポイントに尽きる。このような思考が得意な方は一人でデスクにいるときでも実践できるだろう。しかし、苦手な場合には自分が「演じる」ことのできる状況を自ら作り出すしかない。その方法の一つとしてロールプレイングを紹介しているが、この手法については後述する。
①ペルソナになりきる準備
ペルソナにはリアルな氏名と社名をつける。明らかに偽名とわかるような名前や社名には埋没することができないからだ。自分一人でこの作業をする場合には、この名前が自分の氏名だと思い込んで作業する。複数名でロールプレイングを実施する際にはペルソナ役になる人をここでつけた氏名で呼び、実践いただきたい。
②自社の製品・サービスだとなぜ自分の悩みが解決する?
製品・サービスによって、なぜペルソナの悩みが解決するのかを整理する。
前段として、自分(ペルソナ)が何に悩んでいるのかを整理する。その背景についてもペルソナ設定では緻密に作りあげたのでシチュエーションが想像できるはずだ。コツは、その困りごとが起こるときに浮かび上がる「感情」をイメージしてみることだ。焦りなのか、怒りなのか、失望なのか、シチュエーションと感情がセットでイメージできたとき、ペルソナのリアルな状況がイメージできているはずだ。
この前段階を踏まえたうえで、改めて製品・サービスをみたときに、なぜ悩みが解決するのかを考える。そうすると、製品・サービスのなかの「この一点が特に重要だ」というポイントが見えてきやすい。
③自社のなかに、魅力的だと感じる要素はあるか?
魅力的に感じるとは「感情」を動かされるということでもある。ここではペルソナが製品・サービスを実際に導入したときのシチュエーションを想像してみるとよい。導入したときに起こった変化で、最も「感情」が揺さぶられたのは何の要素か。これが製品・サービスの魅力でもある。
しかし、困りごとに対応しているのは製品・サービスではなく、ビジネスプロセスのなかにあるかもしれない。「何が最も感情を揺さぶられるか」の「何か」には製品・サービス以外の要素が入ることもある。取引に至るプロセスの途中でどんなコミュニケーションが発生するかをペルソナ側の視点から整理すると気付きやすいだろう。
④他社・他製品との比較ポイントは?
ペルソナの思考には必ず比較検討が発生するはずである。比較検討を考えるポイントは以下の
- 他社、他製品と比べたときに自社製品・サービスでないといけない理由は?
- カテゴリの外にある競合製品との比較検討はされたか?
- 「何もしない」という選択肢を選ぶことができる場合、わざわざ自社製品・サービスを選ぶ理由は?
「カテゴリの外にある競合製品」とは直接的な競合製品ではないものの、ペルソナの課題を軸にすると競合になる製品・サービスである。ハンディのビデカメラを販売しているソニーにとって、同じ製品を販売しているパナソニックやキヤノンという競合ではなく、スマホで撮影してしまうという選択肢を取るiPhoneが競合ということも言える。
このように、直接的な同一製品ではないが顧客の課題やニーズを満たす競合の存在を意識すると、自社製品を選ぶ理由に迫真性が増す。
⑤導入をためらってしまう事情や背景は?
例えば「めんどくささ」「煩雑さ」といった現状維持バイアスと呼ばれるものに勝たない限り製品やサービスの導入に繋がらない。現状維持バイアスはペルソナだけでなく、ペルソナが所属する組織に発生することもある。④とも関連するが、無理に製品・サービスを必ずしも導入しなくてよいときは、「何もしない」という選択肢が発生する。
「理性的には良いかも」と思ってはいるものの具体的な行動に至るほどの動機にはなっていない、その様なケースには行動を促すお膳立てを用意してあげると誘導しやすい。
「顧客の立場に立つ」を真に実践する・・・とは
顧客の立場に立つからこそ真に顧客の課題を解決する課題解決型ブースが作られる。そして、「顧客の立場に立つ」を本気で実践するなら実体験することが最も効果的だ。
とは言え、BtoBマーケティングの領域で顧客の立場を実体験することは難しいだろう。
しかし、顧客を演じる(なりきる)ことは可能だ。実体験が難しいのであれば仮想体験することで顧客の立場や感情を一定のレベルで理解する。このプロセスが展示会ブースを真の課題解決型に導いてくれるヒントになる。
できるだけ実体験に近い状況をいかに仮想体験のなかに作るか、もちろん近ければ近いほど仮説の精度は上がっていく。骨折した人の立場や日常生活の課題を理解したいなら、ギブスを巻いてみたうえで擬似的に日常生活を体験して問題点を洗い出すのが近道だろう。
ペルソナ、組織ペルソナ、関与者ペルソナをわざわざ想定した理由の一つは、ここまでの背景を定めていないと顧客の姿を演じる(なりきる)ことが難しいからでもある。背景が具体的であればあるほど、その顧客像になりきって感情を想像することができるのだ。
ペルソナロープレで、顧客感情をサーチ
ペルソナになりきった状態で自社の製品・サービスあるいはビジネスプロセスを見つめてみると、真に課題を解決させる要素がどこにあるのかが体験を通して浮き彫りにすることができる。
「なりきる」を実践するにあたっては複数名であることが望ましいだろう。参加者それぞれが役割をもってペルソナの感情を解体するにあたって、ロープレ(ロールプレイング)と呼ばれる手法を使うと効果的だ。
3名以上で実施できる場合には、①ペルソナ役、②自社役、③チェック役と3つの役割をそれぞれの参加者で分担しロープレすることをオススメする。
チェック役は顧客役と自社役のコミュニケーションを客観視することよりも、顧客役が顧客役として振る舞えていたかどうかの確認に重点を置くとよいだろう。参加者は自社の立場を完全に忘れ去ることは難しい。しかし、チェック役がいればペルソナとして違和感のある行動や思考を確認できる。
ちなみに、このペルソナ視点での魅力探し以外にもロープレを実施するタイミングは展示会の本番までに複数回ある。それぞれのタイミングでロープレを実施する目的は異なるすが、役割になりきっての仮説を検証するというプロセスを展示会本番までに何度か経験しておくとプラスになることは間違いない。
ロープレの基本的な進め方(例)
この方法は一つの例であるため、自社流にアレンジして進めるとよい。
①主旨の説明
普段から展示会の制作を推進しているチームのメンバーなら問題ないだろうが、それ以外のチームから参加者として来てもらうのであれば、ペルソナ設定の背景に対する理解がなければ適切なロープレは実施できない。埋没するには気恥ずかしさもあるので気恥ずかしさを突破できるメンバーを呼ぶか、事前にしっかり主旨説明をしておくことが肝要。
②埋没タイム
ペルソナという人物になりきるための時間が必要であるため、設定シートを読み込むことからスタートする。最初のロープレでペルソナ役になる人に対して、自社の製品・サービスに関係ない質問を投げかける。(例:趣味、家族構成、仕事の進め方など)
判断基準はあくまでペルソナ設定シートの情報だすが、ペルソナ像と比較しながら「ペルソナはこの回答をするかな?しないかな?」ということを都度メンバーと確認しながらペルソナ像のイメージや発言を固めていくとよい。
③ロープレ
ペルソナ役、自社役、チェック役の3者を役割分担しロープレを実施する。実際の進め方は以下の2パターンがイメージしやすいだろう。
- お悩み相談型(ペルソナ自身が悩みに対する解決策を探している)
- 訪問商談型(自社主体の提案型)
お悩み相談というかたちでスタートする方が、来場者の悩みに寄り添いながら自社の良いところを探しやすい。「実は〇〇で困っていて・・・」というペルソナ役のふわっとした表現から徐々に掘り下げていくとイメージしやすく課題に気付きやすくなる。
④レビュー
まず、チェック役の視点からペルソナの思考・感情として適当な発言だったかをレビューする。例えば、「さっきの自社役の質問に対してペルソナ役は〇〇〇と答えていたけれども、ペルソナの組織環境だったら△△△と答えたんじゃないかな?」といった問いかけをしながら、ペルソナ像の整合性を取る。
自社役の応対が適当だったかはこの場では吟味しない。あくまでもペルソナの思考を追体験するための時間として活用する。
〇まとめ
3回のロープレをとおして見えてきたペルソナの課題に対する自社の製品・サービスの魅力を企画シートに書き出してみよう。
〇要する時間イメージ(3名で実施する場合)
趣旨説明5分、埋没タイム10分、(ロープレ5分+レビュー5分)×3セット、まとめ10分
合計:約1時間程度
ロープレを効果的に進めるコツ
①ペルソナの情報ニーズを設定しておくと、より効果的
- 現状の課題に対して既に何らかの対策導入の検討を進めているか
- 検討を進めているのであれば、現状どの程度情報を集めているか
- 情報を集める前後で気になっていること、不安になっていることはあるか
②ペルソナには常に比較という概念があることを前提に考えておく。
- 競合対象という視点は自社視点、ペルソナにとっては比較対象という視点であることを理解する
- ペルソナにとっては自分の課題が解決するならどちらでもよい、という思考前提があると考える。
③設定を作り込んで、その役柄に入り込む。
ロープレ中は参加者の本名でなくペルソナにつけた名前で呼ぶとよい。当然ながら照れは厳禁だ。自分が俳優になったようなつもりで演じるとよいが、そもそもこのような作業が苦でないメンバーを参加者としてキャスティングする方がスムースかもしれない。
担当者一人で一連の作業をする必要がある場合
一人で想定するしかなければ、それでもやるしかないだろう。ぞれぞれの置かれた環境でベストを尽くすしかないのがこの世の常である。その場合でもペルソナになりきった追体験はできなくもない。
例えば、鏡に自分の姿を映して自分が目の前にいる設定で話してみる、あるいはPCのデスクトップ画面に自分の顔を設定して考えてみる、会議室の姿見を前にして話しかけてみる・・・などイロイロ方法はあるだろう。
ペルソナになりきるスイッチさえ入ればよいのであって、何もこの方法にこだわる必要はない。しかし、本気になって顧客体験を追いかけないと、顧客の心情は理解できない。これらの方法では周囲から奇異の目で見られたり、下手したら妙に周りが気を遣っているような状況になるかもしれないが、これも必要なプロセスと割り切ろう。
終わりに
ここまで、顧客の思考をトレースするためのロープレ手法について紹介したが、最初に述べているとおり一定の理解はここまでのステップでまとめた情報を眺めるだけでも可能だ。しかし、顧客の立場になって考えてみるという作業に終わりはなく、「本当にこれでいいのだろうか?」と常に問いかけ続ける姿勢こそが顧客中心の物事の進め方とも言えるだろう。
逆に、様々な事情でここまで押さえて想定することが難しいケースもある。しかし、現状の顧客想定をしている状況よりも、一歩でも現実に近い状況で想定ができていれば進歩と言ってよい。理想的な状況で想定できないからと悲観的にならず、一歩進んだ思考で想定できたことを喜び、次のステップに進んでいただければよいだろう。