装飾会社から提出されてきたレイアウトやイメージが適切かどうか、どんな基準で判断しているだろうか?、そもそもプランのどこが良くてどこが悪いのか判断できているだろうか?、装飾コンペを実施して複数社から提案はしてもらったけれども、結局各社のイメージパースを並べて、「なんとなくコレかな??」という雰囲気で「えいや」で決めていたりはしないだろうか?
展示会ブースは一部が秀でていても、全体のなかにエラーがあると失敗に終わってしまう。そこで、この記事では展示会ブースの計画が適切かどうかを判断する、展示会の強化書オリジナルの評価指標を紹介しよう。
- 適切な計画になっているか判断する「14項目」とは
- 各項目の詳細(何を指し示しているか)
- 各項目のチェック方法
- チェックするための軸①(エラーの回避)
- チェックするための軸②(全体最適)
- 14のチェック項目活用方法
- おわりに
適切な計画になっているか判断する「14項目」とは
いままで装飾コンペを実施しても、パースを並べて「えいや」で選んでいたりしなかっただろうか?、本当は選ばれなかった提案の方がブースの効果を最大化できていたならば、これほど勿体ないことはない。
しかし、それを判断するための指標が無い・あるいは世に広まっていないという状況では見た目の雰囲気や何となくの印象で選んでしまっても責められない。そんな状況を改善する目的で作成したのが、展示会の強化書オリジナル「展示会ブースの効果を最大化する14のチェック項目」だ。
この14という数字は「4×3+2」という式から導き出されている。では、「4」「3」「2」が具体的にどんな数字なのか、掘り下げていこう。
展示会ブースのコミュニケーションにかかわる設計要素を分解すると、①レイアウト設計、②インプレッション設計、③コンテンツ設計、④オペレーション設計、という4つの要素に分解できる。
この4設計を、それぞれをA:誘引力、B:行動力、C:浸透力の3つの視点から効果的か機能不全に陥っていないかをチェックする。
現在のプランのレイアウト設計を誘引力・行動力・浸透力の3つの視点から見たときにどんな状態か、あるいはコンテンツ設計を誘引力・行動力・浸透力の3つの視点から見るとどんな状態か・・・といったかたちで分析を行う。
さらに、各項目だけでなくブース全体に関わるモノとなる、ア:体験の一貫性、イ:目標達成の整合性、という2つの整合性が確保されているかどうかも併せて確認する。
図表にしたうえで、具体例を交えてみるとわかりやすいだろう。以下がその記載例だ。
ぱっと見のイメージで展示会ブースのデザインを評価すると、判断基準が人によってバラバラであったり、成果につながらない要素を判断基準の柱にしてしまうことがある。しかし、判断の軸をもってチェックすると、ブースが適切なのか・どの方向に修正すればよいのかという点が確認できるようになる。
各項目の詳細(何を指し示しているか)
4つの設計要素について
■レイアウト設計
ブース内の配置に関する設計。幅、奥行きだけでなく高さも含めた三次元的な配置を確認する。主に平面図・立面図が検証するためのツール。
■インプレッション設計
ブースのイメージや印象についての設計。言語化が難しい「空気」の設計とも言える。イメージパースや図面、照明計画などで確認する。
■コンテンツ設計
キャッチコピーの文言・その他アイキャッチ要素、展示物、パネル・グラフィック、映像、プレゼンテーションなど。制作プロセスのなかでも重視されやすい項目。
オペレーション設計
接客の基本トーク原稿、対応ルール、声がけ、サンプリング、運営行動など、各スタッフの行動を設計する要素。実際の展示会ブースではこの設計が疎かだったため集客に失敗するというケースが多く見受けられる。
3つの視点について
■誘引力
来場者をブースに引き込むことができるか。主にブース外への影響
■行動力
来場者と運営者の行動をスムーズに誘導しているか、行動にストレスがないか。ブース内外双方への影響
■浸透力
来場者に各構成要素の意図が最大限伝わるか。主にブース内での影響。
2つの整合性について
■体験の一貫性
ブース全体をとおして、来場者の視点から体験に一貫性があるかどうか(バラバラなメッセージを発信していないか)
■目標達成の整合性
掲げた目標は物理的に達成可能かどうか。(レイアウトとオペレーションが特に関係する。)
各項目のチェック方法
4設計それぞれを3視点それぞれと照合すると12項目となる。ここに2整合を足した合計14の項目それぞれについて、ブースプランと照らし合わせながら確認を進める。
各項目をチェックするなかで、機能不全を起こすリスクがあれば「×」、改善余地あり程度なら「△」、効果的なら「〇」をつけていく。
各項目のなかでも展示会ブースの成果に影響の大きい項目と比較的影響の小さい項目があります。あっちが立てばこっちが立たずの場合は以下の表にある赤の項目を優先するとよい。
ただし、展示会ブースのコミュニケーションは全体最適が原則であるため、来場者の体験に沿ってエラーがないかどうかを確認する。
レイアウト設計×3視点のチェック事項
構成する要素の「配置」を縦方向(立面)・横方向(平面)の双方から検証する。あくまで配置がテーマなので内容やイメージは別項目で評価する。
①レイアウト設計×誘引力
- 中に入りやすい設計になっているかどうか、間口の広さなどから確認する。
- 視認性が良い「位置」にキャッチコピーなどのアイキャッチ要素がレイアウトされているかどうか。ブース前の通路幅や来場者動線との関係性から掲出位置について確認する。
②レイアウト設計×行動力
- 通路幅は来場者と運営者が行動しやすいように確保されているか。
- 来場者の動線と運営者の動線は適切なバランスで構成されているか。(双方の行動がカチ合わないような構成になっているか)
- レイアウトと展示項目の動線設計は自然な構成か。(回遊性も確認)
- 展示物やパネル等、それぞれの目線誘導は適切な関係性か。
③レイアウト設計×浸透力
- 体験・滞在するにあたって快適な空間の広さを確保できているか。
- 視界に対して適切なサイズのパネルやグラフィックになっているか。(大きすぎない、小さすぎない、高すぎない、低すぎない)
インプレッション設計×3視点のチェック事項
いわゆる「印象」や「イメージ」に該当する要素。ブースデザインの全体像、各コーナーのデザイン、あるいは照明計画もこの項目でチェックする。
④インプレッション設計×誘引力
- 来場者を引き込むウェルカムなイメージが出ているか。
- 来場者を警戒させないようなイメージになっているか。(圧迫感の回避など)
- 照明は来場者動線に対して眩しくないか。(不快感の回避)
⑤インプレッション設計×行動力
- 来場者をブース内に留める雰囲気があるか。
- 来場者を適切に誘導する雰囲気があるか。
- 来場者の誘導を阻害するような不快な照明はないか。
⑥インプレッション設計×浸透力
- 快適な滞在に繋がるような雰囲気があるか。
- 展示コンテンツのメッセージと整合性があるか。(例:情熱的なメッセージを発している製品なのにブースカラーが落ち着いた青では双方に整合性がない。)
- 照明が展示コンテンツの魅力を最大化しているか。
コンテンツ設計×3視点のチェック事項
この評価は制作プロセスのなかで重視されやすいのでイメージしやすいが、改めて3つの視点から見ることで気付かなかったエラーが見えてくることもある。
⑦コンテンツ設計×誘引力
- キャッチコピー、その他のアイキャッチ要素は来場者の足を止めさせ、興味を引くような内容になっているか。
⑧コンテンツ設計×行動力
- コーナーサインやパネルデザインは適切な来場者の誘導を促す構成になっているか。(わかりやすさ、理解しやすさ、見つけやすさ)
⑨コンテンツ設計×浸透力
- パネル、グラフィック、映像、PCコンテンツ、プレゼンテーションなどの各要素は出展意図を適切なターゲットに最大限伝えることができる内容になっているか。
オペレーション設計×3視点のチェック事項
一般的に出展者で検討することが多く、装飾会社に提案してもらうことは少ない項目がこのオペレーション設計だ。ここのエラーが見過ごされた結果、展示会ブースの効果が思ったほど上がらないケースが多く見受けられる。
⑩オペレーション設計×誘引力
- 声がけやサンプリングは来場者の欲求をくすぐり、警戒心を高めない手法・人数か(特に警戒心に留意する。)
⑪オペレーション設計×行動力
- 直接の接客ではないが運営に関連する行動や、運営スタッフが来場者を誘導するための行動は最適化されているか(運営マニュアル)
⑫オペレーション設計×浸透力
- 基本トーク原稿や想定問答集はターゲットの来場者に対して適切なモノが準備できているか。(接客に関連する行動の最適化、事前ロープレの実施有無など。)
2つの整合性のチェック
⑬一貫性の設計
- ブースの構成要素を来場者視点で体験したときに一貫性があるかどうか。
- 運営ルールの変更事項やトピックスの共有方法が確立されているか。(スタッフごとの対応の均一性、朝礼や終礼で共有する事項を事前に定めているかどうか。)
⑭目標達成の整合性
- 設定した目標に対して、物理的に達成が可能かどうかを検証する。
- 特にレイアウト設計とオペレーション設計の関係性が重要になる。現プランのレイアウトと運営体制で、本当に目標達成が可能かどうかを確認しよう。といっても不確定要素を検証することは難しいので「最低限、物理的に達成可能な状態か」という観点からチェックするとよい。
【具体例】
ある展示会で500枚の名刺を集めたいと目標設定したとする。過去の経験からスタッフ1名で最大限集められる名刺は100枚ということがわかっているのに、運営スタッフとしてブースに立つ人数が3名と決めてしまうと100枚×3名=300枚となり目標は達成できない。この場合の対策は①運営スタッフを増やす、②接客効率を上げて1名につき200枚程度会期中に集められるようにする、③目標の500枚を見直す、の3パターンが考えられる。
チェックするための軸①(エラーの回避)
チェックのスタンスとしては、第一に致命的なエラーがないかを発見することに重きを置いていただきたい。一つの致命的なエラーがあると、他の要素が効果的でも集客に失敗する。
キャッチコピーは完璧、ブースイメージも開放的、それなのに運営スタッフの行動が来場者にとって適切でなかったために、集客に失敗していたケースを過去の記事で紹介している。このケースは⑩オペレーション設計×誘因力の項目で機能不全に陥っていたケースだ。他の項目は〇だらけだったというのに、甚だ勿体ない。
【その他のチェック方法】
- 〇の数の多さよりも、まずは×の数の少なさを目指していただきたい。理想はすべての項目が△以上になっている状態。
- よくわからない項目は、来場者になりきって想定したときに致命的なエラーが見つからなければ「△」にして問題ない。
- 予算の関係で、一つだけ△を〇にするか、×を△にできるかということであれば、×を△にする方を優先したい。(影響の度合いとのバランスは加味しながら。)
チェックするための軸②(全体最適)
展示会のブースは来場者にとっての「体験」であるため、「全体最適」が原則だ。
各ポイントを最適化しても、来場者の「①ブースを見つけ→②中に入り→③接客を受けて→④外に出る」という一連の行動全体が最適化されていないとブースは成果を出してくれない。
各項目だけに絞り込んで見ていると、「来場者がブースに入ってから出るまでの一連の体験」として見え難くなってしまう。来場者視点でチェックする際には、ブースに足を踏み入れるところから出るまでをイメージして確認することが重要だ。特に「体験の一貫性」は、ブース体験全体のなかでの違和感を発見するためにある。
来場者視点になるとは、「来場者に憑依して体験を想像してみる」とも言える。来場者とはペルソナだ。ペルソナになりきって、ペルソナのバックグラウンドを自分のなかに飲み込み、ブースでの体験を想像してみるとよいだろう。そうすると、ブース体験の時間軸内にエラーがあれば気付きやすい。
■ペルソナについての参考記事
14のチェック項目活用方法
出展者側が提出されてきたプランを確認したり、自社で策定した運営計画をチェックするという観点はもちろん、装飾提案側のチェック項目として活用することもできる。あるいは、装飾コンペを実施するときにマトリクスを審査配点表として活用することも可能だ。
「えいや」で決める審査方法は致命的エラーがあっても見落とす可能性が高くなってしまう。イメージパースの出来に引っ張られるという現象は「展示会ブースのコンペあるある」だ。各項目の配点ボリュームは出展者ごとの実情に合わせて検討していただきたいが、集客や成果に影響の大きい項目の配点は高くしておくことが肝要だ。
おわりに
展示会ブースの企画が妥当なものかの判断は非常に難しい。顧客個人の行動にまで解体して想定するという姿勢がその第一歩であるが、そのスタンスを持っていたとしても「企画段階ではわからない現場の状況」は多々発生する。そのような「想定外」を防ぐ方法として、14のチェックを効果的に活用いただきたい。