ブースのカラーイメージ、どうやって決めているだろうか?
展示製品のコンセプトに合わせたイメージカラーにする?、企業イメージに合わせたイメージカラーにする?、展示会場で目立つために突飛なイメージカラーにする?、いろんな決め方があるだろう。
今回はそんな展示会ブースのカラーリングについて、展示会ブースでよく使われる色の傾向と適切なカラー選定の方法を考えてみたい。
展示会ブースでよく使われるカラー(色のランキング)
関西機械要素技術展から見えた、展示会ブースで選定される色の傾向
先日視察した関西機械要素技術展。ここではどんなカラーリングのブースが多かったのだろうか、実際に数値を集計してみた。
【集計方法】
・ブースのテーマカラーになっている色を集計
・ブースを見たときに、最も目につく、あるいはイメージに残る色をテーマカラーと判断。
・ブースで面積の多い色ではない。(面積で集計すると白が一番多くなる。)
・例によって個人的な感性での集計。正確性はありません。
【ランキング】
第1位
青系(ブルー) 約46%
第2位タイ(3色)
赤系(レッド)、黒系(ブラック)、白系(ホワイト) それぞれ約12%
第5位
緑系(グリーン) 約8%
第6位
橙系(オレンジ) 約5%
その他
黄、ピンク、茶、カラフルなど 約5%
以前から展示会は青系のブースが多い印象ではあったが、改めて数えてみると驚きの結果、ほぼブルー系、まさに「半分、青い」状態、いや、完全な半分とまでは至ってないので「限りなく半分に近いブルー」と言えるだろうか。
青系・ブルーは展示会ブースに「使いやすい色」ということは間違いないのだろう。使いやすいということは多くのブースで使われるということ、つまりブルーを使ったカラーリングでの差別化やイメージ付けは難しい・・・と言わざるを得ない。どこもかしこもブルー・青なブース、自社のコンセプトに合わせてブースカラーをブルーにしていたとしたら、この結果にはブルーにならざるを得ない。
2位は赤・白・黒系のカラーを採用したブースがほぼ同数。青色と対をなす赤色は、ブースの数では圧倒的な差があった。赤色とほぼ同数で黒と白基調のブースが見られたのは少し意外な結果だった。
青系の多さを証明する実験
展示会に限らずビジネスシーンで青系のカラーはよく利用される。
ここでカンタンな実験をしてみよう。数秒でできるのでぜひやってみてもらいたい。
まず最初に、Googleの画像検索で「チラシ デザイン」と入力してみよう。画面にはカラフルなチラシのデザインが多数表示されているはずだ。
次に、その検索ワードを「チラシ ビジネス」に変えて検索してみよう。
いかがだろうか?、目の前の画面が半分以上一気に青系になったのではないだろうか。ビジネスシーンでは圧倒的に青系が利用されることの証明と言える状態だろう。
会社案内のパンフレットであれば、基本的にその媒体以外は目に留まらないので青系であっても何の問題もない。この段階ではカラーによる差別化はないのだから。しかし、展示会では複数のブースが同時に目に入る。カラーによる差別化をあなたが図りたいと考えているのであれば、青系のブースがどんな状態になるかはイメージできるかと思う。
展示会ごとでカラーの傾向がある
ものづくりワールドだけの集計なので、すべての展示会に該当するわけではないが、業界のイメージでテーマカラーが想定できるような展示会でなければ似たような傾向になりそうだと仮説立てることができる。今後、他の展示会で検証してみると面白いだろうう。
集計したわけではないが、以下のカテゴリ展示会では色の傾向がモノづくり系展示会とは変わってくるという肌感覚をもっている。
【食品製造工程系、医療・バイオ系展示会】
青基調・白基調がさらに多い。(清潔感や安心感を訴求する製品が多いから)
【デザイン系、インテリア系展示会】
木目調や落ち着いたカラーリングが多い。(プロダクトを引き立たせる舞台装置としてブースが使われている場合が多い。)
では、それぞれのカラーがどんなイメージをブースにもたらすのか、改めて整理してみよう。
色が与えるイメージ(一般論+α)
■赤色基調(レッド)のブース
力強さ、情熱、エネルギーといった「活力」に繋がるようなイメージが中心。あるいは危険、警告といったマイナス方面イメージの打ち出しで活用するということも。また、火力・熱・エネルギーなど、製品がダイレクトに高温の「熱」に関連するモノの場合に製品イメージに近しいカラーとして使われている。
■橙色基調(オレンジ)のブース
活発、陽気、健康、楽しさなどのイメージ。
■黄色基調(オレンジ)のブース
明るさ、元気、陽気、希望などオレンジと似たイメージ。あるいは黒や赤と組み合わせることで「注意」を訴えかける手法もある。
■緑色基調(グリーン)のブース
若々しさ、フレッシュ、平和、安心などのイメージ。エコの要素を訴求する場合にも使いやすいカラー。
■青色基調(ブルー)のブース
誠実、落ち着き、涼しさ、理性、知的、クールといったイメージ。水・流体・低温に関連した製品やイメージとしても活用されやすい。
■黒色基調(ブラック)のブース
威厳、重厚、高級、頑丈といったイメージ。
■白色基調(ホワイト)のブース
清潔、洗練、純粋、スタートといったイメージ。ただし、基礎壁面として使われるオクタノルムも白色のため、美しい白イメージのデザインにならないと、十把一絡げのブースであるという印象を持たれる可能性もある。(安上がりなブースというイメージ)
展示会ブースのカラーリング戦略
展示会ブースのカラー選定に対しては、どんな意図をもって進めるのがよいのだろうか。意識するポイントは以下の2つだ。
- 他社ブースとの差別化
- 自社ブースメッセージとの整合性
それぞれについて解説しよう。
他社ブースとの差別化
展示会場では目立ちたい、という想いを持つ出展者の方は多いことだろう。ということは、他社ブースが採用していないカラーを採用すれば目立つ可能性はある。ものづくりワールドであれば緑、オレンジ、黄色、ピンク、茶色などは採用している企業が少ないカラーだったので目立ちそうだ。
ただし、大きなサイズで出展している企業が黄色やピンクなど珍しい色を使っている場合もある。自社小間の周辺ブースにある影響力の大きなサイズの小間が、どんなカラーを使っているのか、分かる範囲でも調べてみるとよいだろう。
自社ブースメッセージとの整合性
こちらの方が他社ブースとの差別化よりも重要だ。そもそも私は、必ずしも他社ブースと差別化する必要はなくブースで発信しているメッセージと整合性が取れているかどうかの方が重要と考えている。
例えば、青や黒の落ち着いた空間を演出するカラーリングなのに情熱的なメッセージを配している場合、「メッセージから感じてもらいたい印象」と「空間から感じてもらいたい印象」が矛盾してしまっている。
来場者に感じてもらいたい印象は、キャッチコピー、空間、接客、ブースを構成する全ての要素でつくりあげる。そして、来場者とのファーストコンタクトはキャッチコピーになる場合が多い。空間から受けるイメージととキャッチコピーから受けるイメージの整合性を取っておいた方が、こちらが意図した通りの印象を来場者に感じてもらいやすい。
短時間に、適切な印象を受け取ってもらうためには、空間全体を含めたメッセージが一貫していることが重要だが、例えばこの画像では整合性が取れていないことはお分かりいただけるだろう。
製品特性が持つイメージに合わせたカラー
製品そのもののイメージに合わせたカラーを選定する場合にも、打ち出すメッセージとの整合性があるかどうかを検証しよう。
例えば、液体を使う製品だと青、火力を活用する製品だと赤、エコの要素が強い製品だと緑、という製品イメージに近いカラー選定をする場合がある。そのときに、伝えたいメッセージのイメージカラーと製品のイメージカラーが矛盾してしまった場合にはどうすればよいのだろう。
以下は「火力を使う」製品の訴求点が「エコ性能」であるときのイメージだ。さて、どちらのイメージを優先しようか・・・
カラーを決めるためには、ブースで伝えたい印象やメッセージの順番・項目に優先順位をつけ、どちらを優先するのかに合わせて色を選ぶという作業が必要だ。
伝えるべきは「製品そのもの」なのか「製品がもたらすベネフィット」なのか、どちらなのだろう。皆さんが選定することではあるが、私はあくまでも「製品がもたらすベネフィット」に寄り添った方が展示会においては適切な結果につながると感じている。
そもそもカラーで「差別化する」必要があるのか
出展者として展示会ブースに立つ皆さんが、逆に来場者として(客として)展示会場に行くこともあるだろう。そのときのことを思い返してもらいたいのだが、キャッチコピーがしっかり見える構造であれば、極端な目立ち方をしていなくとも、目には入ってくるものだと気付くことだろう。
(なぜ目に入ってくるのか)
- 来場者は、自分に該当する情報がないかセンサーを貼って探している。
- 目に入ってくる情報をしっかり選別しようと無意識にそれぞれのブースを見回している。
- 自分に関係ない情報と判断した際の見切りが早い
つまり、極端に目立つ必要はない、ただし「見やすく」する必要はある。そして「見やすくした情報の精度」こそ大切になる。
参考:展示会におけるキャッチコピーの重要性について
配色コントロールの難しさ
ここからは、装飾会社やデザイナー向けのやや専門的な内容となる。実際にはイメージカラー単色でブースを構成することは少なく、「複数の色を組み合わせた配色」によってブースのカラーイメージを構成することが多いだろう。ただ、この配色は展示会ブースで考えるのが中々難しい。
メインカラー・サブカラー・差し色などを整理するときに、「展示会場」という独特の制約が配色を難しくしてしまう。一般的な店舗・施設などの「空間におけるカラーリング」とも異なる要素が展示会にはある。
面積比で配色を決めたときに起こる弊害
WEBや誌面などをデザインするときには、例えばブルー系60%、イエロー系10%、ホワイト系30%といった整理をして配色を決定することもあるが、この考え方は展示会ブースにそのまま適用することができない。
なぜなら、展示会の来場者は常に歩行してくるという条件があるためだ。WEBや誌面は見る人の視点が固定されているが、展示会場来場者は歩行者でもあるため視点そのものが、ほぼ移動している状態だ。そのため全体のカラー比率を定めていても、場所によって見え方が異なってくる。
また、比較的来場者は看板が掲出されているブースの上部を見て歩く。そのため床のカラーリングは面積に見合うほどの影響度はない。まったく影響がないわけではないので、考慮する必要はあるが過大に評価してはいけない、という認識ぐらいで受け止めていただければよいだろう。
コレを適切にコントロールできるデザイナーは少数派だと感じている。デザイナーが描くイメージパースも視点が固定されたものだ。実際に人が歩いてきたときに見える情報とは異なっているので、コントロールが難しいのも当然だろう。
パースデザイナーによる配色イメージの検証
もし、ある程度でも配色イメージをコントロールしようと思うのであれば、ブース内・ブース外の通路の複数ポイントからのアングルで、どんな配色に見えるかどうかを各個検証するしかないだろう。まず優先的にブース外の通路側から見たアングルが複数点、次にブースに入ったときのアングルを必要点数分だけ検証するとよい。
しかし、そのイメージパースを全て高精細に仕上げると時間と労力が多大なものとなる。検証は線画パースに色をつける程度でも十分に可能だ。ただし、必ず「実際の通路幅・通路状況を想定して来場者が歩いてくる現実の視点」から検証することが肝要だ。そのため、極力正確な通路幅の情報が必要になる。
おわりに
もしかすると、「なんとなく」や単に「好きだから」という理由で展示会ブースのカラーリングを決定していたかもしれない。しかし、色や配色が与えるイメージはそれなりに影響力があることも事実。「届けたい相手」と「発信するメッセージ」を適切に整理したうえで、目的に見合うカラーリングの選定ができれば、展示会出展の効果はさらに高まるだろう。