来場者に何を感じてもらい、どうコミュニケーションを取りたいのか・・・ブースのコンセプトが仮に固まっていたとしても、コンセプトを実現する空間になっているだろうか?
コンセプトを実現する空間とは適切なコンテンツとコミュニケーションが効果的に配されたブースである。来場者の行動に沿ってどのようなコンテンツを配し、コミュニケーションを行うのか。この流れが整理できていないと折角コンセプトを固めたのに意味のない場所に展示物を置いたり、適切な誘引ができなかったりという事態に繋がってしまう。
このような事態を避けるために、カスタマージャーニーマップという手法を展示会ブース版に置き換えた展示会ジャーニーマップを作成し、来場者の行動に対して適切なコンテンツが何かを考えていきたい。
展示会ジャーニーマップとは
ここではカスタマージャーニーマップという手法を展示会ブース版に置き換えた「展示会ジャーニーマップ」というツールを活用する。このツールは誘導したいストーリーとその流れに沿う来場者の行動を可視化し、どんなコンテンツやコミュニケーションをブースで実施すればよいのか検討する、その基本材料になるものだ。
【コンテンツとは】
パネル、キャッチコピー、映像、接客フローなど、来場者との接点になるアイテムやルール
【展示会ジャーニーマップの特徴】
- 来場者の思考・心理をブース誘因からクローズまで可視化したツール。
- 顧客の行動とあわせて、出展者側が用意する接点も同時に検討する。
- 誘導したい感情やストーリーが存在するため、そのプロセスとして適切な打ち手を検討する。
展示会ジャーニーマップは詳細に想定された来場者像(ペルソナ)や自社が伝えるべきメッセージと来場者の感情をどのように変化させれば効果的か、といった仮説が設定されている状態となって作成ができる。仮説設定がまだの場合には以下の記事を参考に設定いただきたい。
カスタマージャーニーマップとは
顧客が商品やサービスを知り、最終的に購買するまでに存在する企業との接点におけるカスタマーの「行動」、「思考・感情」などのプロセスを図示化し一連の流れとして捉える目的で制作されるもので、新規ビジネスモデルの検討や既存ビジネスの課題を洗い出す際に使用するツール。
活用方法は様々、マーケティング施策の全体像を見つめなおすときに活用されたり、店舗接客のフローを再検討する際に活用されたりする。作り方はネットで検索すれば幾らでも情報が出てくるので、興味がある方は調べていただきたい。
しかし、展示会においてカスタマージャーニーマップを作ることは一般的になっていない。
そもそも顧客行動を想定したブースづくりが展示会ブース制作業界全体で成されていない。または、既に存在する顧客接点の可視化というケースに比べ、展示会ブース内における接点の作り方は自由度が高すぎるため、逆にカスタマージャーニーが検討しにくい。あるいは、エンゲージまでのプロセスが長期間なマーケティング施策と比べ、展示会ブースはものの10分という短時間でコミュニケーションが成立する。カスタマージャーニーを検討するにあたっては短すぎるというイメージも感じてしまう。といった理由から一般的になっていないのではと想定される。
しかし、展示会ブース体験という顧客にとっては僅かな時間においても、来場者の行動を可視化して想定することは非常に大切だ。
接点を自由に構築できでしまうせいなのか、展示会のブースは来場者の行動フローが適切に想定されていないブースが多く見受けられる。せっかくキャッチコピーで来場者の欲求を高めたのに、適切なフローやコンテンツが構築されていなかったがために、ブースに足を踏み入れずに来場者が去ってしまうというケースすらある。
来場者に取ってほしい行動に基づいたコンテンツを構築するということが一つのゴールではあるが、そのためにはコンテンツが意図通りに機能するのかということを来場者行動・思考を可視化するなかで検証していく必要がある。よって来場者(カスタマー)の体験(旅)(ジャーニー)を可視化するのだ。
展示会ジャーニーマップの記入方法
フローチャートのようなイメージで接点・来場者の行動と心理を記入していくとよい。
接点・コミュニケーションの記入
接点・コミュニケーションには出展者側で用意するコンテンツやコミュニケーション計画を記入する。①何をするのか(Do)、②何を伝えるのか(Say)の2点を一つのカタマリとして記入いただきたい。
〇接点
何を介して来場者と接点をもつか。
例:キャッチコピー、パネル、展示物、スタッフの接客、商談席でのPC資料
〇メッセージ
接点を介して何を伝えたいか。
感情誘導のプロセスになる伝達内容、コミュニケーションが参考になる。
来場者(ペルソナ)行動・思考の記入
接点・コミュニケーションに触れた来場者の①行動(Do)と②思考・感情(Think)を記入する。来場者の思考はペルソナに埋没して検討しないと、適切な心理が想定できず自社にとって都合よい行動を取るペルソナ像を作り上げてしまうことがあるので注意が必要だ。
〇行動
接点により誘導される行動
〇思考・感情
接点により誘発される感情の動き
感情誘導のゴールに向かうときにどんな発想が考えられるか。
ペルソナになりきる、顧客視点への没入がキモ。
ペルソナ感情の誘導の記入
ペルソナ感情の誘導は、①ブース接触時点の感情をファーストタッチ後のペルソナ感情に、②接客クローズ後の感情はペルソナ行動の最後の欄に記入する。
これら、接点・行動・思考の関係性を重視して検討を進める。来場者がどのように感じるから自分たちの誘導したい行動に導かれるのか、ブースの体験ストーリーが一連の流れとして成立しているかどうかペルソナ視点で考えてみよう。
プロセスのサンプル
どんなプロセスやフローを通過してクローズに辿り着けばよいのだろう。出展製品やペルソナの性質、さらには小間のサイズや場所に応じてプロセスは変化するが、スムースに接客が進むプロセスをサンプルとして例示するので、このケースをモデルに増減を検討してもよい。
①キャッチ(動機付け)
欲求を掻き立てるもの、危機感などのネガティブ感情がキーになる場合も
②後押し
キャッチで足を止めた来場者をブース内に誘引する装置。通路側に面してはいるが、ブース内に向かって伸びる展示台など。
③説明
欲求を充足する背景の説明。製品・サービスだからできること。
④疑問・不安・懸念の払拭
ペルソナ自身の疑問、組織・関与者の要求などから生じる懸念。根拠や解決策の提示が求められる。
⑤足踏み・言い訳を突破するお膳立て
ペルソナに発生する現状維持バイアス、組織・関与者の事情などにより前に進めないと足踏みする状況を突破するきっかけ。サービスやお膳立てなどが考えられる。
あくまで一つのサンプルケースではあるが、来場者の不安点や懸念点を考慮したときに、どんなジャーニーを思い描くのかを想定すれば、展示会後の行動に繋がるのかイメージすると検討が進めやすい。
理想的行動と離脱行動と思考を考えておく
ペルソナの行動は理想的行動と離脱行動の2軸で考えよう。どんなコミュニケーションやコンテンツであれば来場者が離脱するのか整理しておくと、適切なコミュニケーションに近づく。
【離脱行動を考える主な効果】
- 理想的なストーリーに近づけるための離脱回避法を検討する。
- そもそも顧客になり得ない来場者を適切にスクリーニングする
また、離脱のタイミングや内容によって、獲得したリードの特性(重要度)もある程度分類できる。以下のサンプルからピックアップすると例えば①のリードは緊急性はないものの、重要な顧客が存在する可能性がある。顧客重要度を分類する基準として役立てるのも可能だ。
具体的なコンテンツ化は誰と考えるべきか
具体的なコンテンツを考えるのは難しい作業だ。ついついデザイナーや装飾会社を頼りがちですが、依頼前にパートナーの性質をよく考えていただきたい。
もし普段から付き合いのある装飾会社やデザイナーが深く考えることができるパートナーなら、コンテンツ・空間を一連のコミュニケーションに落とし込む方策を共に考えてもらうこともできるだろう。
しかし、コミュニケーションの流れを考える段階でしかないのに、「パネル何枚必要ですか?」「商談席は何席必要ですか?」と聞いてくるようなパートナーなら、コミュニケーションの流れまでは相談できないと考えておいた方がよい、このような状態なら出展者自身で整理する必要がある。
コミュニケーションを来場者の体験として整理すると、どんなコンテンツを用意するのが適切なのかを考えることができる。
パネルを使うという前提が先にあるのではなく、コミュニケーションの段階を考えていくとパネル化が最も適切なのでパネルにする、ではそのパネルは何枚でどんなことを書いているのが適切なのか・・・ここまで掘り下げて議論できるパートナーが理想だろう。
おわりに
コミュニケーションの計画に沿うと、どんなコンテンツが必要になってくるのかが見えてきくる。具体的なパネルなどのデザインに入る前に、ブース全体をとおした10分~30分ほどのコミュニケーションをどのように構成するかイメージを固めておくことで、一貫性ある伝わりやすいコンテンツや接客の計画が作成できる。
ブースに複合的な要素がある場合、小間サイズが4小間を超えるようなサイズになってくる場合には、特にこの展示会ジャーニーマップを制作しておくと、来場者とのコミュニケーションが整理しやすいだろう。
次の記事では、立案してきたコンセプトやコミュニケーション像と、そもそも出展を決めた展示会の選定理由に整合性があるかどうかを確認していく。出展「目的」ではなく出展「理由」を整理することで、共通認識を関係者が持つことができる。