展示会ブースの企画にあたってペルソナを設定する効果は非常に大きい。というより、真に課題解決型のブースをつくろうと思った場合、ペルソナの設定なしに実現は難しいとさえ言える。
展示会ブースづくりにあたって必要なペルソナ設定の方法をこの記事では紹介しよう。もちろん、ペルソナの設定は展示会以外のBtoBマーケティングにおいても応用できる。
ペルソナとは何か
マーケティングに馴染みのない方は初めて聞くワードかもしれない。
一般的に「ターゲット」と呼ばれる領域どんな範囲かをイメージしてもらいたい。例えば30代男性、首都圏在住の女子大生などといった領域がターゲットだ。ペルソナはターゲットの領域から絞り込み個人にまで落とし込んだ架空の人物像のこと指す。
マーケティングの世界をはじめ、企業経営をとりまく世界でペルソナを考えることは一つの手法として一般化しているが、展示会コミュニケーションの世界ではまだまだ一般化していないように見受けられる。
ターゲットが20代男性、30代女性といった広い範囲を示すことが多いのに対し、ペルソナは個人の性質や嗜好なども具体的に設定しリアリティを持たせることが特徴だ。
なぜペルソナを設定するのか?、その効果は?
展示会においてもターゲットを深掘りした詳細なペルソナを設定することは効果的だ。そこには3つの意義がある。
- 顧客思考からの課題解決型コミュニケーションを実践
- 詳細な顧客イメージを内外の関係者と共有
- 企業の持続的成長につながる顧客を探す
顧客思考からの課題解決型コミュニケーションを実践
展示会ブースは課題解決型であることが来場者を捕まえ効果的な接客を行うための基本だ。しかし、課題解決型のブースをつくるにあたって曖昧な顧客像では、顧客にとっての課題が何であるか、どうなれば解決したと考えるのかといった定義も曖昧になる。
先に挙げたような20代男性、30代女性といったセグメントのざっくりしたターゲット。この言葉からは、それぞれの人がどんな行動を取って、行動のなかでどんな課題を感じるか想像しようがない。いや、想像はできるのかもしれないが、一体何通りのパターンを考えればよいのか見当もつかないうえに、人によってバラバラな想像をしてしまう。
例えば・・・20代男性がスマートフォンの利用について感じている不満は何だろう?と質問しよう。相手の立場が何もわからなければ具体的なシーンやイメージは想像できない。その想像にはリアリティがない。
しかし、ここに20代の新卒社会人という属性を一つ付与するだけでどうだろうか?、まったく違う解釈が想像できるだろう。このようにターゲットをより詳細に絞り込み、仮説の個人とも言える段階まで属性や性質を付与するのがペルソナだ。
ペルソナは非常にリアリティがある。リアリティがあるということは、その人の身になってシチュエーションが想像しやすいということだ。20代男性の気持ちは想像がつかなくても、新卒社会人で地方から親元を離れて初めて東京で一人暮らしをする20代男性の気持ちは想像がつくだろう、それと同じようなことだ。
「相手の気持ちになりましょう」という言葉は、そもそも相手の立場を理解できないとはじまらない。課題解決型を実践するのであれば、そもそも課題の正体が何であるのかリアルな顧客像をイメージすることからはじまる。
詳細な顧客イメージを内外の関係者と共有
既に想像がついているだろうが、ターゲットは指し示す領域が広い。よって、チーム内外でそのイメージを共有しようとしたときに、まったく異なる人物像をイメージしてしまい、共通認識を獲得できないことも多い。
「誰に対して」「何を」「どう届けるか」を考えることが展示会に限らずコミュニケーションの大前提だ。しかし「誰に対して」が曖昧なイメージでは、当然「何を」「どう届けるか」も具体的にならない。ペルソナを設定することはチーム内外で「誰に届けるのか」という明確なイメージを共有し、戦略にブレを無くす効果がある。
企業の持続的成長につながる顧客を探す
さて、あなたの企業にとって望ましい顧客とはどんな顧客かだろうか?
一般的には売上や利益率の大きな顧客が挙げられ、そこでよく紹介されるのはパレートの法則(80:20の法則)などに基づいて自社の売上上位を占める重要顧客、あるいはそこに近づく可能性のある顧客をイメージするだろうが、私の考え方はこの原則とは共通する部分とズレる部分がある。
売上上位顧客が重要であるという事実は理解していながらも、一方で売上上位の顧客が必ずしも自社に利益をもたらし続けてくれるわけではないという事実だ。自社が成長し続けるために、最も望ましい顧客像とはどんな顧客なのだろうか。それを測る手段として、例えば顧客ロイヤルティ指標やLTV(ライフ・タイム・バリュー)といった手段が生み出されたのかもしれない。
一般的なマーケティング活動においてペルソナを設定することはターゲット像をより明確にしたうえで適切なアプローチ策を選択するという行動につながるが、逆に展示会においては「そもそも自社にとって望ましい顧客像とは誰なのか」を仮説設定し、その顧客と出会うための場を作るというアプローチができる。
これはマーケットインとプロダクトアウトの交点を探すような作業なので難解ではあるが、プロダクト・マーケットのどちらかにも偏ることなく企業の持続的成長を狙うにあたっては一つの指針になり得ると感じている。このサイト内でも自社基点のテーマと顧客基点のテーマが入り混じるのはそのためだ。
自社の持続的な成長を促してくれる顧客と出逢う、その目的を果たすためにもペルソナ設定は効果的に機能する。
BtoBマーケティングにおけるペルソナ+展示会独自の要素
展示会をはじめとするBtoBマーケティングの分野においては、ペルソナを設定するだけでは情報が不足しているため、以下に挙げる3つのペルソナを考えることで不足を埋めていくことが一般的な手法だ。
- ペルソナ
- 組織ペルソナ
- 関与者ペルソナ(組織内キーパーソンとフロー)
BtoBの世界に身を置いている方にはわかりきったコトですが、BtoBマーケティングは基本的に意思決定までのプロセスが複雑だ。関係者が多くペルソナ個人だけで完結できるケースは少ないだろう。
案件の長期化(受注までの期間が長期化している)という課題を抱えている方であれば尚更、ペルソナ個人のことだけを想定するのではなく、関係者も想定することで受注までのプロセスにおける展示会の役割が最適化できる。
①ペルソナの設定方法
ここからの作業は複数人で検討することをオススメする。
まずはペルソナの設定方法から。ペルソナは具体的な人物像がイメージできる段階までそのペルソナの属性を落とし込む作業だ。ペルソナ・組織ペルソナ・関与者ペルソナを設定する順番は組織ペルソナから進めるとよいとは言われているが、しかしすべての項目を行きつ戻りつしながら考えていくものと捉えていただきたい。
自社にとって望ましい顧客像・ペルソナ像を考えるヒントとして、以下のようなペルソナをイメージすると最適な顧客に近づくことが多い。
- もっとも自社のことを求めてやまない顧客
- 強い痛み・苦しみを抱えている顧客
- 痛み・苦しみの正体に気付いていない顧客
このように、「課題を抱えている」あるいは「課題を言語化できていない」顧客に対して解決策を提示するという方法が展示会では効果のあがるコミュニケーション方法。いわゆる課題解決型のブースコミュニケーションとなる。
課題を抱えている顧客に様々な属性を付与し人物像を具体的していく。以下の項目は具体化するための代表的な項目であるので、まずはこの項目に沿ってペルソナ像を設定していただければよいだろう。
その他にも、どんな項目を設定すれば顧客の課題が浮き彫りにできるか、また社内・チーム内で共通認識を持ちやすいかという視点に従って項目を追加・検討いただきたい。
■注意点
「自社にとって望ましい顧客」と「自社にとって都合がよい顧客」は同一ではないということは忘れないでおきたい。
自社にとって望ましい顧客像を考えていった結果、現実には存在しない、ありえない思考回路をするようなペルソナ像を作ってしまうことがある。こんな人がいたらイイなと理想化したペルソナでは当然ながら想定する意味が無い。
②組織ペルソナの設定方法
組織ペルソナ、つまりペルソナが所属している組織についての仮説設定はペルソナのバックグラウンドにある基本情報だ。
ペルソナの悩みと組織ペルソナの悩みは相互に関係性があるが、全く同一のモノというわけではない。この両者の微妙な違いを整理しておくと、展示会においても効果的なコミュニケーションが検討できる。
ペルソナと組織が抱えている痛み(①と②に関連)
ペルソナと組織ペルソナがかかえている強い痛みについて考えを進めていく。まずは両者が共通して抱えている悩み・ボトルネックを考えてみよう。
ペルソナと組織ペルソナは、一体どんなことに痛みを抱えているのだろうか。耐え難い苦しみが大きければ大きいほど、行動に移ったときの推進力は大きいだろう。大きな痛みであっても言語化できていない、潜在的に抱えている苦しみであるケースもある。顧客が言語化できているかどうかという視点から考えてみるとよいだろう。
先ほど挙げたようにペルソナの悩みと組織の悩みがズレているケースがある。多くの場合、組織の悩みが原因となって個人の痛みが誘発されている。このような状況の場合には「課題」と「問題」といった分け方で定義すると整理が容易になる。
言葉の正しい意味合いということではなく、あくまで痛みを分類するために言葉を使い分けているだけなので、問題⇔課題というフレーズでなくとも問題は無く、皆さんが分かりやすい言葉で表現いただければよい。
なぜ問題と課題をわけて考えた方がよいのか・・・
展示会ブースでのコミュニケーションは問題に対するアプローチをする段階と課題に対するアプローチをする段階があるからだ。
問題は個人の目の前に起こっているものであることが多く、共感しやすくわかりやすいテーマだ。問題に対する解決を訴えかけることは、展示会ブースにおいて痛みを抱える来場者の足を止めるための最もシンプルで効果的な手法だ。
一方、課題は一見わかりにくいが、理性的に検討を進めると解決が必要であることに遅かれ早かれ気付くテーマでもある。BtoBの検討プロセスは理性的に判断されることが多く、感情だけでは処理されない。展示会ブースのコミュニケーションを時間軸で分けたたときに、必ず課題に対するアプローチも必要となる。
さて、ペルソナの痛みと組織ペルソナの痛みにズレがあったとするならば、どの痛みに対してどのタイミングで語り掛けることが効果的に作用するだろうか。
このあたりは別の記事でも触れるが、私は「展示会ブースは感情に働きかけて足をとめ、理性に働きかけて説得する」という場であると感じている。誰の感情に働きかけ、誰の理性に働きかけるのか。ここを押さえるとコミュニケーションの精度が向上するだろう。
③組織内キーパーソン(関与者)、フローの設定方法
BtoBの調達にあたっては多くの登場人物が役割を演じる。その担当者についても一定のバックグラウンドを仮説立てておくとよい。商材に応じて何名程度の登場人物が必要かどうかは検討いただきたい。検討事項は主に以下の項目だ。
- 調達のプロセス、承認フロー
- 担当(調達、製造、研究、営業・・・etc)
- 考え方(したいこと、したくないこと、変えたいこと、変えたくないこと、判断基準など)
- あなたの製品・サービスをペルソナがキーパーソンに紹介したときに、ペルソナは何という言葉をかけるか?、何を気にするか?
この図はかなり簡略化しているが、多くの場合BtoBの承認フローはより複雑だ。登場人物とその関係性を仮説立てて整理しておくと、これらの関与者がペルソナに対してどんな言葉を投げかけ、何を気にし、何を要求するかを整理しやすくなる。
例えば、展示会の来場者自身があなたのサービスを導入したいと思っても、会社に戻ると調達に影響力のある関与者の反対が想定される場合、積極的にあなたのサービスを自社内に導入しようと働きかけはしないかもしれない。しかし、関与者の反対を事前に想定できていれば、来場者に対して「関与者が喜ぶ情報」を中心に資料化したパンフレットを渡すこともできるだろう。
このように、関与者の行動や思考を先回りし何らかの手段に落とし込んでおくことは、展示会において来場者の行動を促すスイッチの一つになる。
ペルソナ設定のPDCA
ペルソナの設定は展示会の前後でPDCAをまわしてブラッシュアップすることが大切だ。展示会とはリアルな仮説検証の場でもある。定量的な情報収集がアンケートの数値、WEBサイトのアクセスなどから得られるのに対し、定性的な情報が得られる場は限られている。展示会は顧客の生の声を効率的に多く集められる場だ。これ以上の定性情報収集の場は無いと言ってもよいだろう。
マーケティング施策の全体像を捉えたときにペルソナをアップデートするタイミングは難しく、すぐに効果が出なかったからといって短絡的に変更することは望ましいことではないが、展示会の持つ特性を考慮すると、仮説を元に導き出したペルソナ像を展示会の場で検証するということは理に適っているだろう。
おわりに:ペルソナをどのように活用するか
次回の記事では、設定したペルソナをもとに自社の強み・魅力を探す作業を進める。仮説を設定することを恐れずに、そして立てた仮説を振り返ったときに違うと思えば変更することも恐れずに、強み探しにトライしていただきたい。