やる気に満ちあふれたスタッフの行動が来場者をブースから遠ざける・・・そんな悲劇の現場を先日視察した展示会で発見してしまった。
大きな小間サイズを確保したそのブースは、キャッチコピーが効いていて、展示のレイアウトは開放感があり良いデザイン、予算をかけてチカラを入れていることも伝わってくる、来場者を誘因するには最高の環境じゃないか・・・一見、そんな風に見えるブースが集客に失敗していたのだ。
その原因は一目で分かった、完全にスタッフの行動が原因だ。この記事では、スタッフの行動・配置・見え方も「ブースのデザイン」と考えて適切に構成していくための方法を考えていく。
企画・デザインなど途中のプロセスがよくても最後に集客を決めるのはスタッフの行動、その影響力の強さを理解しておかないと、そこまで積み上げた成果が台無しになってしまう。
- スタッフの行動で集客に失敗するブース
- 来場者がブースに足を踏み入れるときに作用する2つの心理
- 前提にある来場者の心理状態
- 来場者の警戒心に作用するスタッフの行動3要素
- 周りは適切なスタッフ行動になってないブースばかり
- おわりに
スタッフの行動で集客に失敗するブース
そのブースは、一見するとキャッチコピーが効いていて、開放感があってブースに入りやすい。ぱっと見のデザインだけならまさに集客のお手本とも言えるようなブースだった。事実、私もそのブースが遠くから見えた瞬間に、すぐにブースデザインのサンプルとして写真を撮ろうかと近寄っていったぐらいだ。
しかし、ブースに近づいてみると様子がどうもおかしい。 遠くから歩いてきた来場者も、キャッチコピーを見て興味を持ったりしただろう。なのに、ブースには入らない。いや、入れない。その原因はこんな状態だったから・・・
この画像は多少極端に表現している。が、この画像以上に輪をかけて来場者がブースに入りにくい状況を作っていたのはスタッフのユニフォームがしっかり統一されていたことだ。人数からくる印象以上に、統一感あるスタッフのカタマリが「圧」となって来場者を寄せ付けない空気を作っていた。
スタッフのお声がけに対して来場者は、そのブースを避けるように通路の端に寄り、チラシは受け取ってくれるものの、そそくさと去ってしまう。興味は抱かせているはずなのに・・・という、非常に勿体ない状況。しかし、このような状況に陥っているブースは展示会場を見渡すと意外と多い。
来場者がブースに足を踏み入れるときに作用する2つの心理
来場者がブースに足を踏み入れるかどうかは、来場者のなかにある2つの心理が強い影響力を持っている。
それは、欲求と警戒心。
この2つの心理に適切にアプローチできれば、ブースの集客力は大きく向上する。しかし、どちらかに目が向いていないようなアプローチのブースを作ってしまうと、途端に来場者はブースに足を踏み入れなくなってしまう。
■参考記事
多くのブースは来場者の警戒心に意識が向いていない
これまでの記事で取り上げてきたブースのデザインは「来場者の困りごと」に対して適切にアプローチする大切さに触れてきた。これは来場者の「欲求」に対するアプローチと言える。来場者の「欲求」をくすぐるにはキャチコピーやパネルを効果的に活用するのが第一歩ではある。しかし、ブースに足を踏み入れてもらうにはそれだけでは足りない。
展示会場ではせっかく来場者の「欲求」を高めるアプローチをしたのに、来場者の「警戒心」も高めてしまったがためにブースに足を踏み入れてくれない、というケースが驚くほど多い。来場者の警戒心にまったく意識が向いていないブースが非常に多い。なんて勿体ないんだ!と言わざるを得ない状況である。
実は「警戒心」とはブースのレイアウトやデザイン・キャッチコピーなどからの影響はよりも、スタッフの行動による影響が大きい。人間同士のコミュニケーションが、警戒心を下げるか、逆に上げてしまうのかという結果に強く影響しているのだ。
どうやら、タチの悪いことに警戒心はマイナス方向に強い影響が出やすいようだ。警戒心を下げることは難しいが、警戒心を高めてしまうことは簡単にできてしまう。だからこそ、スタッフの行動・配置・見え方には十分に注意を払う必要がある。
前提にある来場者の心理状態
来場者は自分の困りごとを解決してくれるモノを探している。しかし、どんな情報でも貪欲に集めようと思っているわけではない。自身の欲求と相反する警戒心が存在し、その2つの要素から影響を受けている。
警戒心とは例えば、「このブースに入ったら強引に営業されるんじゃないか」、「アプローチがしつこかったら嫌だな」、など実際にはそう思ってなくとも心の奥底ではこのような可能性を感じているという心理と考えてもらえればよい
一言で表現すると「売りつけられたらイヤだな状態」と言えるだろう。
警戒心を持っている段階では、来場者がブース前を通っているときは「まだあなたから話を聞こうとは思っていないよ」という状態だ。さて、この状況で来場者に対して「寄ってって!」「見てって!」としつこく声をかけたとき何が起こるだろうか。来場者にとっては「話を聞くつもりになっていないのに話しかけてきた!」という認識になるため、心に壁をつくってしまう。
「こちらがアプローチするから来場者が話を聞いてくれる」のではなく「来場者が話を聞きたいと思ってくれたからこちらがアプローチできる」だ。普通のイメージとは順番が逆に感じるが展示会ではこの認識でよい。そして、来場者に「話を聞きたい」と思わせるのはキャッチコピーや展示製品の仕事であるケースが多い。
極論だが、来場者を「捕まえる」のがキャッチコピーやブースの役割で、スタッフの役割はあくまで「説明」にあると考えてもよい。たかが人間が看板様・キャッチコピー様のお仕事を邪魔するなんてトンでもない!というわけだ。(誇張した表現ではあるが・・・)
来場者の警戒心に作用するスタッフの行動3要素
では、どんなスタッフの行動が来場者の警戒心に作用するのだろうか。主に3つの要素があるので、ブースの運営方法を振り返っていただきたい。
- そのスタッフの立ち位置は警戒心を抱かせないか
- そのブースのスタッフ数は警戒心を抱かせないか
- その来場者へのお声がけは警戒心を抱かせないか
そのスタッフの立ち位置は警戒心を抱かせないか
ブースのなか・周辺を含み、スタッフがどの位置に立っているかという点は来場者の警戒心に影響する。来場者をブース内に誘引したければブースに開放感があることが前提になる。装飾要素で考えると壁面を少なくし、天井やブースの奥が見えるなど見通しを効かせることで開放感を確保する。
運営スタッフとは一種の壁面あると言ってもよい。しかも、来場者にとっては「迫りくる壁面」である。ブース入口のど真ん中にスタッフが突っ立っていれば、来場者がブースに入りにくいと考えてしまうのも当然だ。
また、来場者に対して体の正面を見せるような立ち方も圧迫感や威圧感を感じさせてしまい、警戒心を高めてしまう。できる限りブースの壁面側に来場者に対しては体の側面側を見せるような立ち方をする方が警戒心は感じさせない。
そのブースのスタッフ数は警戒心を抱かせないか
警戒心を抱いている来場者にとって出展者スタッフは「狩り場で舌なめずりしながら罠を仕掛けるハンター」だ。か弱い草食動物の来場者は、よっぽど美味しそうなエサが目の前に転がっていないと、そんな危険な場所に自ら足を踏み入れることはしない。
スタッフの人数が多いブースとは、ウサギである来場者から見える位置にハンターが多く狙いを定めている状態と考えてもらうとよいだろう。そんな場所にわざわざ入ってきてくれるだろうか?
程よい塩梅、というものは難しい。ブースの装飾や周辺通路の状況とのバランスから最適な人数を導き出すため一概に「これぐらいの人数」という正解はないが、例えば6m×3mのブースであれば、パっと見の印象で4名ぐらいが限界だろう。
しかし、「実際にいる人数」と「パっと見の印象の人数」は異なるため、運営人員数が多くとも実際の人数ほど多く感じさせないテクニックはある。スタッフの衣装をユニフォームと腕章にわけて、遠目には腕章のスタッフが来場者のように見せるというテクニックを活用していた出展者を見かけたことがあり、これは有効なテクニックだ。
人が人を呼ぶという言葉があるが、その逆パターンである無人が無人を呼ぶという状況に陥るケースもある。あるブースにスタッフしかおらず、来場者が1人もいないという状態、この状態では来場者はブースに入ることを躊躇してしまう。しかし、パっと見の印象で来場者がブース内にいるように見せればよい、つまりサクラは上手に振る舞えば効果的に機能するということだ。
そのお声がけ方法は警戒心を抱かせないお声掛けか
スタッフによる来場者へのお声がけ、これも方法を間違うと来場者の警戒心を高めてしまう。声がけに至る前段階の待機方法とタイミング、声がけの内容などが警戒心に対して作用する。
声がけと待機方法について、より詳細に掘り下げた記事を書いたのでコチラを参考に来場者の警戒心に留意する方法を意識してもらうとよいだろう。
この記事でも触れているが、来場者の警戒心を高めない待機方法としてアパレル店舗で一般的な方法として取り入れられている【動的待機】という待機方法を実践してもらうと来場者の警戒心を高めずに済む。
よいキャッチコピーを作っているはずなのに、そそくさと来場者が逃げていってしまう場合には、このような警戒心への影響を考えてみるとよいだろう。
最悪の運営状況は【集客に資する】と思われていることも
来場者の警戒心に目が向いていないと、これらの3要素はどのように扱われることが多いだろうか。よく見かけるのは以下のようなパターンだ。
- 積極的な来場者へのアプローチ
- 元気よく来場者めがけてチラシを配りに行く
- 少しでも足を止めたら即座にご説明
- 活気を感じさせるためにスタッフやコンパニオンが通路に並んで声出
意外とこれらの行動は「集客に資する」と思われがちだ。しかし、来場者が警戒心を抱いている段階ではこれらの行動はマイナス方向に作用してしまう。そして、マイナス方向に作用するような行動を運営スタッフは「良かれと思って」取る。一生懸命なスタッフの行動が逆に来場者を遠ざける、マイナスの相乗効果が発生してしまっている。こんんな悲劇は避けたいものだ。
周りは適切なスタッフ行動になってないブースばかり
アパレル店舗は売上を向上させるために「入店率を向上させる」という視点でスタッフの行動を解体し、適切なアプローチになるようなノウハウを積み重ねている。しかし、展示会に出展する我々は接客業のプロではなく、普段から慣れているわけではない行動を取るため、適切な行動にはならないことが多い。
だからこそ、スタッフの行動を最適化することは他のブースと比較したときに圧倒的な差別化要因となる。せっかく来場者の心をブースに向けたのであれば、それを逃さないスタッフの行動を他の業界のノウハウを身につけたいものだ。
おわりに
スタッフの行動以外にもスタッフのユニフォームも来場者の警戒心に対して影響がある。それはまた次回に記事にしたい。
アパレル店舗における入店率という言葉で表現したので、展示会においては入小間率と表現しよう。入小間率を向上させるポイントは2点
- 欲求を高める空間的デザインアプローチ
- 警戒心を下げる対人的アプローチ
ということになる。
先に挙げた動的待機を活用しながら、どのように来場者に声がけなどのアプローチを具体的にかけていけばよいのかという点について以下の記事で掘り下げている。展示会場でのスタッフ行動の具体例として参考にしていただきたい。
このように、ブースデザインの観点だけでなくスタッフの行動含めてトータルに展示会をデザインしてくことが肝要だ。アドバイザーをご依頼いただければ「実際のスタッフ行動はどうしたらよいの?」といったことにもアドバイス可能だ、お悩みの方はご相談いただきたい。