イエスセット(yes set)法という手法をご存じだろうか。展示会ブースにおいてもイエスセット法を活用すれば効果の挙がるシーンがある。それは、ファーストアプローチから説明に至るまでの過程において特に有効だ。
ファーストアプローチから接客に至るまでの過程をスムーズに進めたい。これは出展者の皆さんが当然のごとく抱いている想いだろう。もしあなたが、「声がけが接客に結び付かない」「接客をはじめても早々に来場者が立ち去ってしまう」といった課題を抱えている場合には、イエスセット法の活用を検討してみるとよいだろう。
イエスセット法とは
Yesで回答できる質問を重ねることで、本命の質問に対してもYesと言ってもらいやすくする手法だ。心理学に基づいた交渉術で広くビジネスの場でも応用されている。
イエスセットそのものに対する詳細な説明は、多くのサイトで紹介されているのでここでは割愛する。Yesで回答できるものを重ねるという手法はイエスセットのうちの一つの方法で、他にも方法論があるので気になる方は調べてみていただきたい。
ここでは、展示会ブースにおいて如何にイエスセットを活用するかという点について考える。
展示会ブースにおけるイエスセット法の応用方法
前回の記事では来場者に対するファーストアプローチ、つまり声がけの段階において「来場者が持つ警戒心」に留意する必要性について解説した。これをふまえたうえで、イエスセット法は展示会においても有効に活用できる。
■参考記事
しかし、道行く来場者に突然「今日は良い天気ですね」と声を掛けても不審がられるのがオチだろう。だから、展示会ブースのコミュニケーションに合わせたイエスセット法の活用方法を考えてみたい。
あなたが関係性を築きたい来場者は誰なのか
そもそも、道行く来場者の誰でも彼でも信頼感を構築したいわけではないだろう。
顧客になり得る来場者と信頼関係を構築したいわけで、顧客になり得ない来場者と信頼関係を構築しても時間の無駄である。来場者側にとっても同じで自分の課題を解決してくれない出展者と延々楽しく会話することができたとしても、その時間は限りある展示会来場時間のなかでは無駄でしかない。
ここで突然イエスセット法的なアプローチで入ってしまうと、余計な来場者までブースに引き込んでしまう。展示会とは「限りある時間」をスタッフ数やブースの広さなど「限りあるリソース」のなかで最大限成果に繋がるように導かねばならない。
「とにかく来場者を山ほど増やしたい!」というスタンスは取引に繋がらない来場者を多く招いてしまう危険すらあり、それらの来場者を接客している間に本来接客すべきだった取引に繋がる来場者をロスしてしまう可能性がある。特に展示会会期最終日は来場者が通常よりも増えるため、このような「スクリーニング」は非常に重要となる。
ニーズチェックをYesかNoで答えられる質問にする
よって、来場者へのファーストアプローチはニーズチェックの質問をYesかNoで回答できるものにするとよい。
ニーズチェックの質問とは、目の前にいる来場者は顧客になり得る来場者か、そうでないのかを判断する質問と考えてもらえればよいだろう。
Yesであれば顧客になり得る来場者なので、そのまま接客に繋げる。Noであれば顧客になり得ない来場者なので早々にリリースする、あるいは「ご自由にブースをみてください」といった案内に留めて、他の来場者にアプローチすることも可能となる。
まず、YesかNoで答えられる質問であるというポイントがイエスセット法に繋げるにおいては重要だ。ここで仮に「どんなことに困っていますか?」という問いかけを行った場合は、来場者はその回答を具体的に考える。回答が返ってきたとしても実はまだこの来場者は「接客を受ける」ということをOKした状態ではない。
だから、ここでは「〇〇にお困りですか?」という質問の方がイエスセット的だ。来場者はその質問に対してYesかNoで回答できるのだから。
そして、その先のコミュニケーションを工夫することがイエスセット的になる。ニーズチェック質問のあと本題に前に何問かYesで回答できる内容を重ねてみよう。例えば、業界の一般常識、直近の動向、大手企業の発表、など「顧客候補であるならば間違いなくYesとしか回答されない質問」を幾つか重ねる。
イエスセット法を展示会ブースで使う目的は?
このようなアプローチを経ることで、来場者は本命の質問に対しても「Yes」と答えてもらいやすくなる。当然、最後の質問は「〇〇の課題を解決するサービスを紹介していますのでご説明させていただけますか?」だ。しかも、この顧客は最初にスクリーニングされた「顧客になり得る来場者」なのだ。
イエスセットを活用する際たる目的は「来場者をブースのなかで接客する」という状態を作ることだ。同じように自社製品を紹介するにしても、イエスセットを経た来場者とそうでない来場者ではブースに対する気持ちの向かい方が違うだろう。より「前のめり」になった状態で真剣に話を聞いてもらえる状態を目指す方が成果に近づくことは想像に難くない。
イエスセット(yes set)法、云々の前段階で
そもそも、展示会ブースのコミュニケーションは来場者とスタッフだけの関係性ではなく、来場者とブース(スタッフを含む)の関係性だ。ブースの別の要素が語っていることを敢えてスタッフが語る必要はない。
例えば、ブースデザインでキャッチコピーを適切に見せることができていれば、スクリーニングはある程度まで済んでいるとも考えられる。「キャッチコピーを見た来場者が何を感じるか」この来場者思考をリアルにイメージすることができれば、ニーズチェックの質問も何を問いかければよいのかが分かるだろう。
おわりに
これはあくまで、展示会ブースでイエスセット法を活用するのであれば、という前提に立って考察したアプローチ方法である。これを活用しないアプローチも勿論あり得るので、自分たちに合った方法を検討してもらえればよい。
しかし、もしこれまでのアプローチでうまく接客に結び付かない、接客をはじめた早い段階で来場者が去ってしまう、という課題を感じているのであれば、イエスセット(yes set)法の応用は効果的に働くだろう。
さて、ようやくはじまる来場者との接客だが、接客を円滑・効率的に行うために準備しておくべき接客 三種の神器がある。
三種の神器とは、①接客スクリプト、②想定問答集、③ヒアリングシートだ。これらは接客に関連するツールなので、他にも運営面においては運営マニュアルなども今後は登場する。
次回は、この接客三種の神器について、どのような考え方に基づいて準備すれば効果的なのかを考えてみたい。