展示会の強化書

展示会ブース出展の成果を劇的に向上させるための方法論をギュっと濃縮した強化書です。あなたのビジネスは展示会で大きく伸ばせる!

関西ものづくりワールドで見つけたお手本のようなブース

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先日、関西ものづくりワールド2019を視察してきた。機械要素技術展、工場設備・備品展、設計・製造ソリューション展、ものづくりAI/IoT展、次世代3Dプリンタ展から成る、ものづくり系の総合展示会。総来場者数約4万名、出展者数約1400社と西日本最大規模のモノづくり系展示会だ。

 

会場全体の傾向や出展にあたって成果を最大化するための対策などは以下の記事を参考にしていただきたい。

www.tenjikaibooth.net

 

全体的な傾向として、まだまだ課題解決型のアプローチが適切にできている出展者は少ない。適切にメッセージやコミュニケーションを設計できていないために、出会えていたはずの顧客と出会えていないのではないか、そう感じるブースが多かった。

 

しかし、会場を視察していて「これは素晴らしい!」と驚いたブースも幾つか見つけることができた。そのなかの1社である、工場設備・備品展に出展していたメインマーク株式会社のブースをご紹介しよう。余りにも素晴らしかったので、リサーチだけのつもりが思わず現地でお声がけさせていただき、ブースづくりの考え方などをお伺いした。快くご対応いただいたことを有難く思う。

 

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展示会を基点として成果に繋げていくための最適なコミュニケーションが設計されていたこのブース、多くの出展者にお手本としていただきたい。

 

 

 ■ご紹介する出展者

メインマーク株式会社

コンクリート土間床の傾斜・沈下・段差修正、土間床下の空洞重点を主な事業とする。

www.teretek.jp

 

何が素晴らしいブースだったのか?

 

まずは、メインマークのブース写真を見ていただこう。何がスゴイのか分かるだろうか。集客力に秀でているのはモチロンだが、このブースでのコミュニケーションであれば、Aランクの顧客を集めることができる可能性も、最終的な受注率も高くなるであろうことが容易に想像できる。おそらく、ものづくりワールド全体の出展者のなかでも最も費用対効果の高いブースだっただろう。

 

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今回のブースでは4つのポイントが素晴らしかった。皆さんでもお手本にできるポイントがあるはずなので、今後のブースづくりの参考にしていただきたい。

 

 

①キャッチコピーが「来場者の困りごと」に応えている

 

このブースで最初に目に入ってくるのはキャッチコピーである。

 

床の傾き・沈下 業務を止めずに修正

 

このキャッチコピーが素晴らしく効果を発揮している。

 

なぜこのコピーが効くのか。それを考えるためには「組織の課題」「個人の問題」を分けて考えると分かりやすい。この両者は互いに関連性がありながらも、少しばかりズレている。

 

床が傾いている、ということから発生する事態は組織の課題だ。例えばスタッフが躓きやすい、例えば棚が傾いていて危険、これらは組織が抱えている課題である。一方、その組織の課題が引き起こす個人の問題というものがある。

 

仮にあなたがこの施設全般の保守管理担当者だったとすると、おそらく床の課題を認知はしているだろう。しかし、その課題への対処を考えたときに、床の修繕をするとなると大規模な工事になってしまうのではないかという先入観を抱いてしまうかもしれない。ラインを一定期間に渡って止めないといけない、それ以前に各部署と調整しないといけない、そのときに大きな反発が出るかもしれない・・・と、これが「組織の課題」が原因で発生する「個人の問題」の一例だ。

 

予想できる困難なハードルが存在するとき、人は「積極的に対処したくないな・・・」と思ってしまう。実際にこの床の課題は、組織にとって騙し騙しであれば表面化するほどの課題ではないという状態のとき、個人は「まだ対処しなくてもよい」「それほど大きな問題ではない」と意識下で判断してしまう。課題そのものの大きさや影響よりも、個人の行動を阻害するハードルの高さによって「課題か」「課題ではないか」を判断してしまう。

 

よって、このような来場者に対しては「課題というほどではない」という認識を一段階上げ「解決できる課題である」という認識を抱いてもらう必要がある。課題の顕在化とか、課題の形成とか言われている作業だが、私はこのプロセスを課題の言語化と呼んでいる。

 

課題の言語化を促すにあたって、キャッチコピーが効いてくる。

 

業務を止めずに修正

 

この一言が加わっているだけで、実は個人の問題も含めて解決してしまっているのだ。床の工事と聞いたときに感じる「ラインを止めなきゃいけないのか??」といった懸念を払拭し、「それならば他部署との調整も容易になるだろう」という発想を、この一言だけで導くことができる。

 

おそらく、「床の傾き・沈下を修正」というフレーズだけでは、これほど多くの来場者に刺さらなかったのではないか。「業務を止めずに」というフレーズがあることが大きかったはず。

 

組織にとっても業務を止めないということはラインを稼働させ続けることができるので、当然メリットである。しかし、来場者にとっては組織の課題そのものよりも、ラインを止めるという調整に対して発声する反発や、他部署との煩雑な調整が発生する心理的負担の方を大きく感じている。これが「個人の問題」だ。

 

その「個人の問題」がたった一文のキャッチコピーで解決するとイメージできたからこそ、来場者の足が止まったのだろう。キャッチコピーは「組織の課題」と「個人の問題」、その双方にアプローチするのが成果に繋げる最短距離。これを的確に実践していた。

 

■キャッチコピーづくりについての参考記事

www.tenjikaibooth.net

 

 

②ロジカルシンキング的な説得アプローチ

 

ロジカルシンキングを活用し、相手を的確に説得するために「ピラミッド構造」というフレームを使うことが交渉術や説得術として紹介されることが多い。これは、結論を最初に述べ、その結論に紐づく形で根拠や証拠を提示していく論理展開の方法だ。

 

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メインマークのブースは、ピラミッド構造的なコミュニケーションをブースのデザインが実現している。これも、来場者の納得感を生み出す効果的な方法だ。

 

先に挙げたキャッチコピーで目を引く。「床の傾き・沈下 業務を止めずに修正」これはピラミッド構造で言うところの【結論】にあたる。その結論が興味を惹くような内容であった場合、来場者はその根拠や証拠が知りたくなる。「そんなことができるなんて本当かなぁ?」「なんでそんなことができるの?」という疑念を感じるのだ。既に結論に対しては興味を抱いている。だから、その後に続く【根拠】が知りたくなる、【根拠】があれば安心して社内に提案できるのだから。

 

さて、ブース写真で見てみよう。来場者はまずメインのキャッチコピーが目に入る。その後、目線は隣のグラフィックに移っていく。

 

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ここでは、見るべき順番でデザインが構成されていたという点が重要だ。

 

このブースは通路を歩く来場者が最初に「メインコピー」を見るようなデザインになっている。その後、根拠情報に目線が移るように設計されているので、ピラミッド構造に沿った「見てほしい順番」でキャッチコピーと根拠情報を見せることのできるデザインと言えるだろう。

 

根拠情報とは「テラテック工法」の説明をしているグラフィックだ。ここにある特許工法というワードがあることで、一気に納得感を生み出すことができる

 

「特許」とは一種の「お墨付き」である。権威によって成されたお墨付きは、その対象が信頼・安心できるものと感じさせる効果がある。なぜ【結論】が実現できるのか?、それは【根拠】だから。という文脈で語ることがピラミッド構造の構成方法。その【根拠】に一瞬でイメージできる納得感のある情報を配すると効果的だ

 

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しかし、多くの出展者は【根拠】を最初に伝えてしまっている。これは順番が違っているのだ。最初に来場者の課題に応える【結論】を伝え、興味を抱いてもらえるから技術や背景などの【根拠】が知りたくなるという順番だ。コミュニケーションの順番を変えるだけでも、これほど大きな成果が上がる。そこを多くの出展者の皆様にお手本としていただきたい。

 

デザイン上の落とし込みも、ピラミッド構造で伝わるように構成されていた。

 

中央の壁面は周囲から高く突出しているので最初に目が留まりやすい。メインコピーのフォントサイズが最も大きくイラストも併用しているので、メインコピーが目に留まる。続いて来場者は目線を右方向に移し始める。「工場・倉庫のお悩み解決します」というフレーズに「ほうほう、なるほど、でも本当かな?」と思っていると、最後に根拠情報である特許工法「テラテック工法」という情報まで、自然と目線が左から右へ動くなかで見ることができる

 

この段階までで、僅か数秒。結論を提示し興味を抱かせ、その根拠を提示し納得感を醸成する。ピラミッド構造の応用による自然な誘導を、言葉とデザインの落とし込みで実現してしまっていたのだ。これは素直に感心した。

 

 

③警戒心を解くプレゼンテーションデモ

 

さて、ここまでで既に来場者はブースに興味を強く抱いている。しかし、もう一歩ブースで話を聞くためには何かしらの【後押し】になるものがほしい。興味があってもホイホイとブースに入ってくるほど積極的ではない。やはり日本人はシャイなのかもしれない。

 

ここで、【後押し】として機能していたのがブース前でMCにより実施されていたデモだ。ブースに近づく段階で壁面を見て既に興味を抱いていた来場者はブース前方で行われているデモに気付く。このデモを見ることは、ある意味「ブースに立ち寄る言い訳」として機能する。来場者が自然とブースでの接客を受けるという状態を作り出していたのが、このデモだ。

 

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しかも、このデモが「心理的な距離を近づけるようなデモ」だったこともポイントが高い。

 

デモ・プレゼンテーションを行っている出展者は多いが、MCが淡々と原稿を読むだけで一方通行になってしまっているブースも多いのだが、対してメインマークのMCは、動きを活用しながら語り掛けるようなデモを行っていた

 

「こちらをご覧ください」という動きも大きく、サンプルの上に自分が実際に乗って「ほら、かなりしっかりした作りなんですよ」と体感的なコミュニケーションを行っていた。実際に来場者とやり取りをしているわけではないが、このようなデモを見ると双方向のコミュニケーションを取っているときと似たような気持ちになる。つまり、来場者の警戒心を解除してくれるのだ

 

警戒心を解いた来場者は自分からスタッフに質問してきてくれたり、スタッフからのアプローチにも反応しやすくなってくれる。このようなデモの実践方法を採ることで、来場者がスタッフとコミュニケーションを取る準備ができる、その効果は大きいと感じた。

 

 

④接客の一貫性を提供するブースのオペレーション

 

警戒心を解いた来場者に対しては、スタッフが接客にあたる。このときにスタッフが手持ち出来るぐらいのサイズのパネルを使って、来場者に見せながら詳細をご説明していた。この方法も素晴らしい。わざわざ壁面にパネルを取り付けると、その場所まで来場者に来てもらわなければならないが、この手法だとスタッフが近づいていけばよいだけだ。

 

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しかも、このパネルは1枚ではない。何枚も同じパネルをつくり、それを各スタッフが持って接客に活用していた。ここが驚いた、メインマークのスゴいところである。

 

同じツールを活用して各スタッフが接客をする。それは「接客の均質化」に繋がる。

「接客の一貫性」と言ってもよいだろう。誰が接客しても同じ説明ができる、対応する人によって言うことが違うなんて事態は起こらない。これは来場者にとっては望ましいことだ。

 

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担当者によって対応が変わるような取引相手とは関係を持ちたくないのが通常の考え方だろう。おそらくメインマークであれば、そのような事態はない。接客のオペレーションで使うツールにさえも、顧客に対する一貫性が現れていたのだから

 

そして、接客に一貫性を持たせることは、展示会後の検証も容易になる。スタッフごとで対応が違ったのであれば、どんなコミュニケーションが良く、どんなコミュニケーションが悪かったのかを検証することが難しくなる。スタッフ全員が共通言語・共通コミュニケーションのもと、実践された結果を受ければ、次回への改善点が非常に見出しやすくなる。展示会のPDCAが適切に回るのだ。

 

 

ブースから感じる企業の基本的スタンス

 

展示会ブースとは、企業の基本的なスタンスが如実にデザインとして現れてしまう場であると感じている。

 

取引・商談のための場ですよ、と多くの主催者は説明するが、それ以上に自社の基本姿勢・社会への向き合い方を顧客に対してプレゼンテーションしている場であるとも感じている。

 

課題解決型のアプローチを採っているように見えて「売りつけてやろう」という思想が現れてしまっているブースもよく見かける。ブースのデザイン・コミュニケーションのあり方に、企業の基本的姿勢が見え隠れしてしまうのだ。来場者は敏感にそこを感じ取ってしまう。信頼できる企業なのかどうかを第一印象で判断する。実際に取引に至るかどうかはBtoBのビジネスプロセスのなかでのコミュニケーションになるので少しテーマがズレてしまうが、最初の基点をつくるのは、あくまでもブースに訪れた個人とのコミュニケーションだ。

 

だからこそ、私はメインマークの展示・デザイン・コミュニケーションに好感を抱いた。

 

まず、顧客の課題を定義する、その解決方法としての証拠を提示するという、「顧客が知りたいこと」を基点にしたコミュニケーションができること。これは「自分たちが伝えたいこと」が前面に出ていると実践できない。そして、一貫性ある対応を提供するという真摯な姿勢一貫性は顧客に対する安心感の証明になる

 

様々な展示会ブースをこれまでにリサーチ・分析しているが、これ程見事なブースはそうそう見られない。デザインとコミュニケーションの双方が顧客を向いた方向で考えられている。このブースの設計思想は、普段のビジネスから顧客中心志向とも言える文化を組織内に育んでいなければ、実践できないものだろう。

 

ブースから企業としての顧客に対する真摯な姿勢が現れていると感じた。来場者も敏感にそこを感じ取ったからこそ、人だかりが絶えなかったのだと感じている。

 

 

どうやって、そんなブースに辿り着いたのか

 

一体どのようにして、このブースに辿り着いたのだろうと大きな興味を抱き、普段はリサーチだけで済ませるところを思わずスタッフへお声がけさせていただいた。快くお話しを聞かせていただき有難い限りだ。

 

販売促進部の矢吹様にお話しをお伺いしたところ、グラフィックの部分はご自身でイラストレーターを使いデザインされたということだった。なるほど、それは適切にデザインに落とし込めるはずだ。まず、自分たちのなかで顧客に対して伝える価値が整理されている。そして、それを伝えるための最適なデザインに落とし込むことができている。①何を伝えるか、②どう伝えるか、このパランスが適切に取れる体制だったのだ。

 

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「何を伝えるか」「どう伝えるか」の整理:キャッチコピー版

 

ちなみに、以前はパッケージブースで出展されていたということだが、やはり自社の価値を伝えるためにはオリジナルな形状でないと難しいということから木工でのブースを作ると決められたと聞いている。ブースの作り方も予算をかけるべきところと、簡素にすべきところのバランスが非常によい。

 

おそらく、会場内で最も費用対効果の高いブースだったのではないだろうか。展示会出展経験が少ないのに、このコミュニケーションのクオリティまで辿り着くのは見事と称賛するしかない。


 

このようなブースを自分たちも作るためには

 

さて、多くの出展者は自社でデザインを内製することは難しいだろう。基本的には装飾会社やデザイン会社に対する依頼になる。が、プロであるはずのデザイナーに依頼しても、メインマークのようなコミュニケーションに繋がるデザインは出来上がるとは限らない。

 

これは、あなた自身が自社の価値を顧客の視点で見たときに、何が伝えるべき内容で、どの順番で伝えるべきなのかということを整理できていないと起こる事態だ。私自身が装飾会社にいたときの経験を思い返してみても、コレがキッチリ整理できている出展者はほとんどいなかった。

 

ただひたすらに、自社の製品のPRポイントを、自分たちの言いたいことを、とにかく伝えようとする。それが「相手が聞きたいこと」ではないという点には気づいていない。だから、一見すると良いデザインのような気がするのに、来場者には伝わらないデザインができあがる

 

言語化すべきは、顧客視点から見たときの自社の価値だ。自社の何を顧客は価値であると感じ、どんな順番で伝えれば最も伝わるのか。これは、顧客の行動を解体して考えるしかない。とは言え、難しいものではない。必要なのは顧客中心志向とも言える真摯な姿勢だけだ。あなたにも、きっとできる。

 

これを整理するために「展示会ブースの成果を最大化する13のワークシート」というツールを有償だが配布している。言語化に困っている方は利用してみるとよいだろう。

 

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主催者に対してもお願いしたい。もしメインマークが許すなら、主催者のリードエグジビションジャパンの営業担当者は、この事例をベストプラクティスとして広く共有すべきだろう。商談を超えた企業の価値の創出に貢献するブースのあり方とも言えるこのコミュニケーションこそ、展示会の理想形に近いのではないだろうか。

 

もし、どの出展者もこんなコミュニケーションのあり方でブースを作れるようになったとすれば、展示会産業の価値は今よりも飛躍的に向上しているだろう。私は、そんな未来が見たい。

 

ブースを提案する装飾会社側もよく見てほしい。このブースを「良いブース」であると感じる価値観を個々が持てるかどうかが、これからの産業全体の競争力に繋がっていくのだと強く感じる。企業としてのあり方を体現する展示会、そのサポートをするということは、カタチだけに捉われないデザイン側の価値を生み出す営みに繋がっていく。

 

何か一つでもよい、この記事を読む皆さんが、お手本にすべきコミュニケーションがあった。何か一つでも次の展示会に活かすことができれば、きっとあなたのブースの成果は向上するはずだ。

 

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