前回の記事で、展示会ブースの費用対効果を算出する際にCPLを活用してはいけない理由についてご説明した。仮にCPLを活用するのであれば、獲得した最上位のリードであるAランクのみを軸にしてCPLを算出しなければならない。
■参考記事
しかし、CPLではそもそも展示会ブース出展の費用対効果における妥当性が判断できない。CPLで算出できるのは前回出展時からの比較だ。では、どのようにして費用対効果の妥当性を測ればよいのか。その方法論について考えてみたい。
費用対効果の妥当性は売上が想定できねば判断できない
展示会に対して投入した費用と効果の妥当性を知りたいのであれば、その評価基準は売上を軸にするしかないだろう。しかし、その評価は容易ではない。
そもそも、展示会終了時点では売上には勿論まだ結びついていない。獲得したのはあくまでもリードと呼ばれる見込客だ。この見込客のうち何件が成約まで辿り着き、どの程度の平均売価になったかどうかは、展示会後のマーケティングと営業戦略による影響がほとんどだ。
よって、通常は展示会終了で売上見込を算出することはできない。
売上見込が見えると、CPLとは違った結果が見える
通常は展示会終了時点で見込を算出することはできない。しかし、そこを曲げて売上見込を算出してしまおうという試みが今回の記事で紹介する内容だ。
では、どのようにして売上見込を算出するのか、方法はシンプルに「仮説の売上見込」を立てて計算するだけだ。仮説の売上見込とは、獲得したリードのランクごとにCVR(歩留まり率)と平均売価を仮説設定し各リードの売価を合計したものだ。
CVR(歩留まり率)とは、獲得したリードのうち受注に至った数の割合である。通常、獲得リードすべてがそのまま受注につながることは無く、一定の歩留まりが存在する。このCVR(歩留まり率)をなるべく高くしようと、展示会後にフォロー営業したりセミナーへの参加を促したり、あの手この手でアプローチするのだ。
さて、以下のようなケースをサンプルとして、売上見込の算出についてご説明しよう。
この事例ではスタンダード製品よりもオプションをモリモリに付けてくれそうな顧客をAランクと定義している。顧客のランクが高くなるほど売価が増えるようなパターンもあれば、逆に売価の増えそうな顧客を高ランクと定義する方法もあるだろう。軸をどこに置くかは各社で検討いただければよい。
さて、前回の記事でサンプルとして挙げた出展者が上記のような顧客ランクごとのCVRと平均売価であった場合、最終的な売上見込はどのような数値になるか、CPLが優秀だった前回出展時と一見悪化したように見える今回展示会の2回について、それぞれ算出してみよう。
展示会でのランクごとの獲得リード数は以下のとおりであったと設定している。
この獲得件数にCVRと平均売価を掛けると売上見込は以下のとおりとなる。なお、CVRと平均売価は前回出展時と今回出展時、どちらも同一であるという設定のもと算出している。
CPLは前回展示会の方が優秀だと算出されてしまうが、売上見込合計は今回展示会の方が高い。このように、リードのランク付けと実際の売上との相関性が高い場合はCPLの評価とは異なる結果が出る場合もある。どちらが本当の意味で費用対効果の妥当性が高かったのかは言うまでもないだろう。
極端な例だとAランクのリード獲得数が前回に比べて減少しても、それを大きく上回るようなCVR・平均売価の向上があれば、最終的な売上見込は逆転することすらある。CVRと平均売価は、成果を考えるにおいて外せない項目なのだ。
さて、売上見込の合計額が算出できれば、コストとのバランスが比較できる。投資額が回収できそうなリード獲得数に至っているのか、そうでないのかが判断できるので、投資の妥当性も判断できるということだ。先ほどの2例の場合、それぞれの粗利が仮に10%だったとして、投資額の合計が200万であったなら、今回出展に関しては投資を上回る成果を発揮しているが、前回出展は未達と判断できる。
このように、各リードのランクに対してCVRと平均売価を展示会前に仮説立てて設定しておく。そうすれば、展示会において何件のリードを獲得すればよいのか目標数値が決定できる。さらに、展示会終了時点でその目標を達成したか・していないかで費用対効果の妥当性を判断することができる。
もちろん、展示会終了時点での判別であるため実際の受注件数や平均売価とはズレが出るケースがある。一定期間経過後に必ず実際の売上と比較して、CVRや平均売価の設定が妥当であったか、実際の売上と比較した妥当性はどうだったかを検証しなければいけない。つまり、投資の妥当性判断については最低でも2回、同じ展示会に対して検証する必要がある。
CVRと平均売価は強引でも仮説設定するしかない
理屈は分かるものの、簡単に算出できるわけではないぞ、という思いを抱いたことだろう。売上見込を算出するためにはCVRと平均売価を算出しなければいけないからだ。そして、これらの算出については体系化された方法論はない。自社の過去実績から算出するか、仮説を立てて算出する以外に方法はないのだ。
しかし、これを算出しなければ何もはじまらない。多少強引でも仮説設定をして、展示会に出展するごとに成果との相関性を検証してCVRと平均売価の数値を現実に即したものに近づけていく。何度かこの作業を繰り返すと、ある程度信頼のおける数値に近づくはずだ。
CVRと平均売価の設定は【とっかかり】のある数値情報を拾い上げることのから始まる。起点になる数字は各社の状況により変わるが、当然のことながら過去に展示会出展をしたことがあるケースの方が数値情報を拾い出しやすい。
過去の展示会出展経験や自社のビジネスからヒントになる数値を探る
①過去に展示会出展経験がある
→リードのランク付けを行っている場合
展示会出展後に一定の期間を経過した段階で、リードのランクごとに受注件数や受注額を算出する。この場合は最もCVRと平均売価を算出しやすい
→リードのランク付けを行っていなかった場合
リードの分類基準を定める。次回出展時にリード分類する予定ならその基準でもよい。その基準に基づいて前回のリードをランク分けし、ランクごとのCVRと平均売価を算出する。
②過去に展示会出展経験がない
→普段から新規セールス活動を頻繁に行っている
展示会とは会場で担当者と見込顧客による直接のコミュニケーションが発生している。ということは、展示会で獲得するリードは通常のリードよりもビジネスゴールに向けたプロセスで考えると一歩進んだ段階にいると想定できるかもしれない。例えばホームページからの問合せがあったリードに対して初回訪問が実行できた顧客の受注率が展示会のCVRに近い数字になるかもしれない。自社のビジネスプロセスのなかで、展示会で狙う顧客とのコミュニケーションに近い状況が起こるシチュエーションを思い出してみれば、参考になる数値が洗い出せるだろう。
→新規セールス活動はあまり行っていない
取っ掛かりになる数値がまったくないので、この場合は事前にCVRや平均売価を設定することは難しいかもしれない。この状態であればシンプルに獲得したい売上に対する目標数値としてのリード獲得数を決定し、出展~受注までのプロセスを経てから検証するしかないだろう。
CVR・平均売価を算出するときに留意するポイント
このケースはどう考えたらいいんだろう?、この状況は展示会が起点となって売上に繋がったと言えるのか?、などなど・・・イレギュラーなケースは多々出てくるだろう。このような点について正解の道筋はないのだが、幾つかのケースについてどのように成果数値に反映するかという基準を自社内で決めておけばよい。自らが決定した基準に則って数値を算出すればよいだけだ。
例えば春の製品Aを紹介した展示会と夏の製品Bを紹介した展示会、それぞれに来訪してくれたリードが最終的に製品Cを導入してくれた場合。このときに製品Cの売上高を春の展示会の成果とみなすのか、それとも春・夏、双方の成果とみなすのか、そもそも製品Cは展示会で紹介したモノではないので成果とはみなさないのか。これには特に「こうすべき」というものは存在しないので、自社内での基準を決めておいて機械的に数値を算出すればよい。
以下のようなケースは検討が必要かもしれない。そのほかにどんなケースがあるかは自社内で一度整理してみるとよいだろう。どんな経路・ケースを経て受注に至るかは各社の特徴があるものだ。
- どの時期、どの時点で展示会の成果を評価するのか
- 複数の出展ブースを訪問してくれた見込客の扱い
- 既に取引のある顧客がブースに立ち寄ってくれた結果発生した売上
- 育成中のリードがブースに立ち寄り、その後発生した売上
- 顧客ごとの売上を基準にするか、顧客ごとの特定製品・サービスの売上を基準にするか
余談ではあるが、売上に至る道筋をこのように整理して体系化し見つめ直すことは、自社の売上に至るまでの「黄金パターン」を発見することにも繋がる。真の意味での黄金パターンが見つかれば、その活動に注力すれば売上は伸びやすい。これはまさにKPIマネジメント的な発想だ。
初回の売上だけが算出基準でよいのか
展示会ブースの企画とは「自社の持続的な成長」に繋がる顧客の獲得を視点にすると効果的だ。しかし、現状で挙げたような「売上」基点の評価の方法は基本的に顧客から得られた「初回の売上」を成果として考えてしまっている。本来は「初回の売上」が大切なのではなく「顧客との継続的な関係性・売上」が重要になるはずだろう。
初回売上にばかり目が向いていると、すぐに案件化できそうな顧客の重要度が高まるが、そのような顧客が必ずしも自社の持続的な成長に貢献してくれるとは限らない。
とある企業の調達担当者が自社ブースを見て「これこれこんな案件があるから急ぎで見積がほしい」となった場合、案件化までの近さからAランクに分類されるかもしれない。
しかし、この顧客は調達担当であり自社の技術面ではなく価格面ばかり評価するような顧客であったとしたら、自社の持続的な成長に寄与するだろうか、Aランクと判別してもよいものなのだろうか。この顧客は常に自社に強い価格競争を強いてくる、そんな顧客をAランクと判別してしまう仕組みになっていたとしたら、あなたの会社にとってプラスになるのだろうか。
投資の妥当性判断は、どんな顧客と結びつき、どんな関係性を築き、自社がどんな状態であることが「あるべき姿」なのかを定義することから始まる。
そのときに、指標として活用されるのは単純な初回売上ではなく、例えばLTVと呼ばれる顧客生涯価値という指標、例えば顧客ロイヤルティ指標と呼ばれる顧客と自社との結びつきを示す指標、このような考え方に近づいていくと適切なのだろう。
本当はここまで踏み込んで考えることができれば効果的ではあるのだろうが、実際に考えていくための方法論は未だ私は持っていない。この点については今後考察を進めていきたい。
おわりに
展示会の成果測定とは、売上との相関性が重要だ。売上との相関性は過去の展示会出展を一定期間経過後にチェックする行動を定期的に行い、現在出展予定の展示会に対するCVR・平均売価の設定と付随するリード獲得目標数の設定を改善し続けることにより、売上と相関性ある測定に繋がる。
CPLだけでは売上との相関性は判断できない。参考指標の一つであることに違いはないが、売上とどのように結びつくのかを長期的な活動のなかで徐々に自社基準として確立させる姿勢が肝要だろう。そして、この数値設定はダイレクトに展示会ブースの計画に影響を及ぼす。次回は売上見込、目標数値、ブースの計画がいかに連動するのかを考えていく。