展示会場を巡っていると様々なユニフォームを着用して接客にあたるスタッフを見かける。そこで今回は展示会ブースのユニフォーム選びについて考えてみよう。
たかがユニフォーム?
いや、思ってもみないような効果が、プラス方向にも、そしてマイナス方向にも存在する。ユニフォームの適切な選定はブースの成否に大きく影響すると意識しておくとよいだろう。
- どれぐらいの展示ブースがユニフォームを採用しているのか
- なぜユニフォームを着用するのか(一般論)
- ユニフォームが生んでしまうブースへのマイナス効果
- どんなユニフォームだとマイナス方向の影響が少ない?
- ユニフォームの使い方が上手なブース
- ユニフォーム+αの状況によって感じる印象
- おわりに
どれぐらいの展示ブースがユニフォームを採用しているのか
先日視察した総務・人事・経理ワールドの出展ブースでスタッフユニフォームの着用率を集計した。
出展ブース全体のなかでユニフォームを着用していたのは約42%だった。この数字、多いだろうか?、少ないだろうか?、なんとも判断の難しい数字だ。しかし、会場のなかでもHR EXPOに限ると着用率は60%にもなる。これは業界の特色かもしれない。
着用しているものは、Tシャツが最も多く、次にポロシャツ、パーカー、ブルゾンが採用されている。珍しいモノだとエプロンやサッカー風のユニフォームを着用しているブースもあった。
なぜユニフォームを着用するのか(一般論)
なぜユニフォームを着用するのか?、ユニフォームを着用することのメリットとして語られる一般論を紹介する。
【ユニフォームを着用するメリット】
- 同じユニフォームを着用することで、スタッフに一体感を醸成する。
- 運営スタッフが来場者からわかりやすい。
- スーツだとカタい印象になってしまうが、ユニフォームだと親しみを感じてもらいやすい。ウェルカム感の演出
- いわゆる「ワイガヤ感」と言われるような活気を感じさせやすい。
- スタッフの見た目もブースデザインと考えて、統一感を表現できる。
と、一見よいことだらけのような気もするが、展示会場をじっくり見ていると「どうやら、そんなに良いことだらけというわけでもないぞ・・・」と感じるシーンが多々存在していた。
後述するが、私の結論はスタッフユニフォームを採用するメリットは間違いなく存在するが、同時にデメリットも存在するので、選定には注意を払う必要があるということだ。
また、デメリットは以下の2点からもタチの悪さを増大させている。
- デメリットから生まれるマイナス方面の効果は容易にメリットから生まれるプラス効果を上回ってしまう。
- デメリットはメリットに比べて気付かれにくい、あるいは無視されやすいという状況にある。
だからこそ余計にデメリットに注意を払わないと、マイナス方面の効果に気付かずに採用してしまうような事態に陥ってしまい、仮にマイナス方面の効果が出た状況においてもその原因の一つがスタッフユニフォームにあると気付かれにくい。
ユニフォームが生んでしまうブースへのマイナス効果
BtoBの展示会とBtoCの展示会では性質が異なる。この記事はBtoBかつ製品導入にある程度の期間を要するテーマの展示会をイメージしてスタッフユニフォームの功罪に触れている。ゲームショウやモーターショウのようなイベントとでは来場者の行動や目的がまったく異なるため、メリットとデメリットが生む効果の幅もまったく変わってくる。
ここで前回の記事を思い出してみよう。来場者がブースに足を踏み入れるかどうかを決めるときに綱引きをする2つの心理について考えてみた。
そう、欲求と警戒心。
特にスタッフユニフォームの着用が来場者の警戒心を高めてしまっているのではないかな、と思われるケースが幾つか見て取れた。
「ユニフォームを着用すると親しみを感じてもらいやすいから、逆に警戒心は下がるんじゃないの?」と思うかもしれない。たしかにそのようなプラス効果も発揮していたのだろうが、それを上回るマイナス方面の効果が発揮されてしまっていたと認識いただければよい。
スタッフがお揃いのユニフォームを着用する。これはブースのイメージに統一感を持たせ、メッセージ性が強くなる効果がある。この表現は「よく言えば」である。
逆に「悪く言えば」、圧力が強くなるということだ。表現を変えただけなのに一気に不穏な空気が漂ってきた。
メッセージが強いことがプラスに働く状況か、あるいはマイナスに作用してしまう状況なのか。それは、来場者の心理状態によって異なる。
ブース前を通過している来場者はまだ「売りつけられたらイヤだな状態」にある。この状態ではブースから受ける圧力をマイナス方面の印象として受け取ってしまう危険性が高まる。
つまり、デザインやブランディングの一環として統一感を演出することが、ブースからのメッセージ性を増大させる、ここまでは良いのだが、その増大させられたメッセージは意図せず来場者に圧力として受け取られてしまう・・・本末転倒と言える状況だ。
輪をかけて状況を悪化させるのは、ユニフォームを着たブースではスタッフがみな一様に元気よくハキハキと良い笑顔で声がけをしてまわっているケースが多いということだ。これは圧力の相乗効果、圧力のシナジーとも言えそうです。しかし、本来シナジーとはマイナス方面の意味では使わない用語なので、ここではカナシナジーと表現しよう。「悲しなじー」・・・どこぞの梨のゆるキャラが発する語尾みたいになってしまった・・・!
「圧力」とは「ブース入ってこいや!」「うちらの商品買えや!」「こっち見ろや!」「無視すんなや!」というメッセージのように感じてしまうプレッシャーと表現できる。
ずらっと並んだ笑顔のスタッフ、丁寧ながら元気な声がけ、そんな一見ポジティブな表情の裏側に上述のような表現を感じてしまう。羊の皮を被った狼とはよく言ったものだ。
しかし、ユニフォームを採用してはいけない、ということを言っているのではない。プラスの効果は間違いなく存在するので、マイナス方向の効果が出ないように注意を払うということだけだ。ちょうどよい塩梅と言えるラインを目指そう。
どんなユニフォームだとマイナス方向の影響が少ない?
まず、ブースのデザインに対して「人が目立ってしまう」デザインのユニフォームは避けた方が無難だ。ブースの色調に対してユニフォームの色調にコントラストが少ない方がよい。
よくあるダメなパターンとしては装飾予算がかけられずパッケージブース(白い壁面)にせざるを得なかったのだが、スタッフぐらいは目立たせよう!と、明るい色のユニフォームを着てしまう状況。見事なまでにスタッフを目立たせることには成功しているのですが、その目立ち方は悪目立ちに他ならない。
「この人はスタッフだ」と感じさせる要素が極力抑えられた方がよい。壁面や床面と同系色を採用する、あるいはブース全体のデザインと対応したカラーリングにするといった手法がある。
もちろん皆さんは忍者でも何でもないので、実際に見えなくなっているわけではない。しかし、ユニフォームの色に気を遣うだけでも、来場者の意識がスタッフの存在に強く向かないようコントロールし、警戒心を高めないよう誘導することができる。
実際にはユニフォームをだけでなく、スタッフの人数・立ち位置・向き・姿勢・アプローチ方法など複合的な要因が来場者の警戒心に影響するのではあるが、ユニフォームはブースから遠い位置からでも視認できる情報の一つなので、来場者がブースに近づく前から警戒心を抱かせないようコントロールするには、その選定が重要になる。
ユニフォームの使い方が上手なブース
総務・人事・経理ワールドの出展者に、ユニフォームの使い方が上手なブースがあった。2種類のユニフォームを採用し、スタッフの役割によって着用するアイテムを変えるという手段を取っていた。
【スタッフA:ポロシャツ着用】
チラシ配布やファーストアプローチにあたるスタッフ
【スタッフB:スーツに腕章着用】
ブース内での詳細なご説明にあたるスタッフ
■効果①
実際の運営スタッフ数と比較して、来場者が認識するスタッフ数は少なくて済む。つまり「圧力」を低く感じるのでブースに入ってもらいやすい。
■効果②
スーツを着たスタッフは、遠目には来場者かスタッフか判別できない(ポロシャツを着た人だけがスタッフだと判断する)。そのためスーツを着たスタッフがサクラとして機能する。来場者にとって自分以外の客がいるブースには足を踏み入れやすい。
■効果③
しかし、ブースに近づいたり入ったりするとスーツのスタッフが付けている腕章の存在が意識できるので、説明を聞きたいときにも手間取らない。
非常にうまい手法だと感心したブースだ。実際、このブースはそれなりに来場者で賑わっていたが、冷静に見るとブースの面積に対してトータルのスタッフ数は多過ぎるんじゃないのかな?という印象ではあった。しかし、2種類のユニフォームを用いることでスタッフ数を実数ほど多く見せないという状況をつくり、来場者の警戒心を高めずに多くのスタッフがブース内でフレキシブルに動ける状況を作っていたのだ。
ユニフォーム+αの状況によって感じる印象
HR EXPOでのユニフォーム着用率が高かったことは既に述べた。HR EXPOとは人事労務・教育・採用といった分野のサービスを展開している企業が多数出展しているエリアだ。採用されているユニフォームもTシャツやポロシャツだけでなく、パーカーといった通常ビジネスの場では着用する機会が少ないようなモノも活用されていた。
偏見や言いがかりの類になってしまうかもしれない。あくまで私個人の先入観という意味で受け取っていただきたいのだが、このカテゴリの企業に所属する社員の方を「チャラい」と感じてしまうことがある。ネアカな方が多い、良く言えばコミュニケーション力が高いということなのだろうが、根暗な自分からするとやや苦手にしているノリの人々でもある。そんな人たちがパーカーやTシャツを着ていたりすると、余計に「チャラさ」が増して感じてしまい、根暗な自分はブースに入ることを躊躇してしまう。
あなたの「個人的な印象」なんか参考にならない!、と思われるだろう。
しかし、なぜ敢えて「個人的な印象」を持ち出したかと言うと、「自分たちが普段どう見られているか」を意識した方が、ブースを通じたコミュニケーションの成果を意図通りのものに近づけやすくなるからだ。
自分たちのイメージをそのまま活用するのか、あるいはイメージの逆をつくのか、最終的に「どう思ってもらいたいか」というポイントを起点にすると、自分たちが普段どう見られているかというイメージすら利用できる。もしかすると、それは「業界」というカテゴライズでイメージが形成されているかもしれない。
例えばこのHR EXPOでは多くのブースがスタッフユニフォームを採用して、場合によっては「チャラく」も見えてしまう。そんなブースが多い中、とあるブースではパリっとした服装でスタッフが出迎えてくれていた。「チャラい」と感じる服装のブースが多い会場だと逆に目立ち、ともすると真摯な印象すら受けてしまう。もしこの出展者がブースをとおして「真面目」「誠実」といったイメージを伝えたかったのであれば大成功だろう。
至って普通の服装なのだが、「展示会場という環境」と「自分たちのイメージ」をうまく活用すれば、そんなコントロールすら可能になりる。展示会の接客においてスタッフがスーツしか着ていない状態はNGと言われることも多いのだが、よくよく周囲の状況や出展する展示会の性質を加味すると、そのような常識に当てはまらないケースもあるのだ。
私のイメージが一般的なイメージだとは決して言わない。あくまで私が感じている個人的なモノの見方だ。そのため、「自分たちがどう思われているか」ということを知るには一定のリサーチが必要だろう。しかし、「イメージ」「先入観」「他者の視点」「一般論」といったポイントをある程度でも知ったうえでならば、ユニフォームの選定という些細に思えるかもしれない点ですら効果的な応用方法がある。
おわりに
ユニフォームを採用することのデメリットについては理解いただけただろうか。このデメリットは見逃されやすい、一方でメリットが存在するのも事実である。であれば、メリットは活かしつつデメリットの要素が顕在化してこない「ちょうどよい塩梅」を探すことを基本的な姿勢としていただきたい。
何事もバランスが大切、とは当たり前のようだが、デメリットに気付かれにくいカテゴリであると認識すると、よいバランスを保つことができるだろう。